とある子爵令嬢の大逆転(前編)
22話で乃亜が疲れた理由に繋がるお話です。
何気に今年初のおまけ投稿ですね。
ヴァルハラ連合。
12の国からなるハマル大陸最大の国家集合体。
その中でも最大の規模であるアリエス王国の田舎。
そこに彼女はいた。
名をアリーリャ・ベラヤリーニヤ。
アリエス王国のハクセン侯爵家。その分家、ベラヤリーニヤ子爵家の長女である。
「ではお父様行ってまいります」
そんな彼女が鎧を着て、背負い鞄を背負うと執務室にいる父親に声をかける。
「ああ、リーリャ。いつもすまないね、ふがいない私のために……」
「いいんですのよ、貴族たるもの当然の務めでもありますわ」
善人であるベラヤリーニヤ家。
人の良さに付け込んで、色々な人間が彼らから少しずつ資産を絡めとっていった。
貴族としての最低限の生活にも困り始めたその頃、アリーリャが13歳を迎え、冒険者になった。
表向きは領主の娘である私が自ら魔物を狩ることで、領民たちが危険な思いをしなくて済む。
そして、お肉がたくさん食べられる。ということだが。
実際は魔物の素材が高値で売れる。それを領の運営や奪われた資産の買戻しなどに使うためであった。
冒険者となって早2年、幸いにも剣と魔法の腕が立ったアリーリャは上位の冒険者へと成長していた。
「お嬢~、これ」
「ありがとう、ヴィオレッタ」
「無理せずにヤバいと思ったら戻ってくるんだよ~」
執務室を出ると幼いころ一緒に遊んだメイド、ヴィオレッタから剣を受け取り、家を出る。
今日はどんな依頼があるのか。ギルドへと歩みを進めていくアリーリャ。
貧乏貴族の悪あがき、本家であるハクセン家以外のほとんどの貴族はそういって笑っていた。
しかし、その悪あがきが思いもよらぬ形で結実することになるとは今の彼女は知らない。
「ふぅ、これでひとまずは大丈夫ですわ!」
私は剣に付いた体液を振り払うと、軽く布で拭って鞘にしまいます。
今日の獲物は化け蟹、ことビッグクラブ。
群れがいつの間にか沢に住み着いていたということで、私が行くことに。
領民のおうちほどある大ぶりのカニさんが10匹。あとそれ以下の大きさのカニさんがたくさん。
骨は折れますが、Aランク冒険者の私には特段難しい依頼ではございませんのよ?
マジックバッグ、我が家のとっておきの品。生きているもの以外なら無制限にしまっておける不思議な鞄。
それにビッグクラブをしまっていきます。
思えば冒険者となってもう2年でしょうか。
最初は薬草採取から始まって、次に小さな魔物の討伐、護衛、色々やってきましたわね。
意外と性に合うのでしょうか?
手放してしまったものを買い戻すために、必要なお金がたくさんということもあります。
でも、ここまでずっと続けられたのはそれだけじゃない気がしますわ。
……あら? 今何か気配が。あらあら? だんだん近づいてきてますわね。
さっきは感じられませんけど、イノシシ当たりでしたら今日の晩御飯にでもなっていただこうかしら?
なんて考えていた私の前に現れたのは……、カゴを背負った5歳くらいの男の子。
「やったー! 川だ!」
そう言って川に入ろうとしますが……、いけません!
まだビッグクラブの体液が濃く残ってるはずです。
川に入るならもうちょっとあとにしませんと!
私は慌てて男の子を止めます。
「ちょっと坊や、川に入るのはお待ちになって?! さっき魔物を倒したばっかりですの! ばっちいのが混ざってるかもしれませんわ!」
私の声にピタッと止まる男の子。
そして、私の方を振り向くと頭を下げて挨拶をしてくださいました。
「お姉ちゃんこんにちは! 僕、シェラタン」
「あら、これはご丁寧に。こんにちは。私はアリーリャ・ベラヤリーニヤですわ。以後お見知りおきを」
「アリーリャお姉ちゃん!」
茂みから飛び出してきたシェラタンちゃんからお話を聞くと、この川にはウナギなる魚がいるとのこと。
おっきいウナギ、をウナベエ、に持っていくとカバヤキ、にしてくれるから獲りに来たみたいですわ。
とっても美味しいみたいですので、私もご相伴に与れないかしら。
「お姉ちゃんも一緒に獲ろ! そんでウナベエ連れてってもらお!」
まぁ、シェラタンちゃんから素敵なお誘い!
殿方からのお誘いに簡単に乗るのは淑女としてはしたないですけど、小さな子の夢を壊してはいけませんものね!
「ええ、お手伝いいたしますわ!」
こうして私とシェラタンちゃんの2人でウナギを獲ることになったのですが……。
シェラタンちゃんの言うウナギなる魚。
まさかニョロリのことだったなんて……。
血に毒があり、血抜きをしてどうにかなったとしても美味しくなかった気が……。
いけませんわ! 私たちの知らない調理法があって、それで美味しく食べられるのなら!
覚えて領の皆さんにも教えて差し上げませんと!
どれだけいるのかわかりませんけど、シェラタンちゃんも頑張ってますし、私も負けてられませんわ!
「うんしょ、うんしょ」
シェラタンちゃんと獲ったウナギ、2人合わせて30匹。
本当はもっと獲ってたんですのよ?
とても大きなものだけ残して、シェラタンちゃんが背負っていたカゴに入れて運ぶことにしたんですの。
「ところで、こんな山奥にウナベエ? なんてところございますの? ご存じないかもしれませんけど、私この領の領主の娘でして。知らないうちに住み着かれると税とかの問題で困るんですのよねぇ」
じゃあ行こ! なんてシェラタンちゃんの言葉に従って、森の方に入っていきましたけど。
このあたりに誰かが住んでいるなんてお話聞いたことありませんの。
勝手に住み着かれてるのならお説教しませんと。
「違うよ! セナとメープルが待ってるから魔法でウナベエに行くんだ」
なるほど、転移魔法の使い手。……って、転移魔法ってかなりの上級魔法じゃありませんこと?!
そんなすごい魔法使いがいたらもっと騒ぎになってもおかしくないはずですのに……。
なんて考えていると、シェラタンちゃんが駆けだしますの。
「セナ!」
「坊ちゃま! 心配しましたよ? もうちょっと遅かったらメープルが探しに出るところでした」
「ごめんね~、メープルは?」
「今、ゴン太さまを呼びに行ってます。少々お待ちを。……この方は?」
セナさんとシェラタンちゃんのやり取りを遠巻きに見ていると、セナさんが私に気付きます。
ここは私からご挨拶した方がよろしいですわね。
「はじめまして、私はアリーリャ。アリーリャ・ベラヤリーニヤ。ここベラヤリーニヤ子爵領の領主、ロデューサ・ベラヤリーニヤが長子ですの」
「これはこれは、ご挨拶痛み入ります。私はセナ。坊ちゃまのお付きのものです。失礼ですが、坊ちゃまとはいったいどういう流れで行動を共に……?」
やっぱり気になりますわよねぇ。ということで私が冒険者であること、獲物を狩ったところにシェラタンちゃんがやってきたこと、色々説明をいたしましたわ。
「……というわけで現在に至るということですの」
「そうでしたか、坊ちゃまをお助けいただきありがとうございました」
「アリーリャお姉ちゃんもカバヤキ食べるからね」
「ええ、そうですね。お礼をしなくてはなりません」
無事お付きの人の許可もいただけて何よりですわ!
なんて安心して待っているとどこからか犬の鳴き声が。
「ゴン太! ゴン太きた!」
なるほど、ゴン太さまは犬ですか。
……えっ、犬? なんで?
「ゴン太さま、ちょっと待ってください! 私そんなに足速くないから!」
「もーおー、しょうがないなぁ乃亜ちゃんは。だったらアタシが運んであげる!」
「ひゃっ! メープルちゃん、いきなり担ぐのはやめて!」
……なんだかとっても騒がしい方がいらっしゃるみたいですわね。
パチパチと音を立てて燃える炭。
丁寧に捌かれ、串を打たれたウナギがその上でじっくりと焼かれる。
時折垂れる脂が炭にかかることでじゅわっと音が鳴り、匂いが広がる。
うな兵衛、8代目当主。皆木久蔵88歳、息子に店を譲って3年。
現役を退いてもなおその串打ちと焼きの腕は健在だ。
その技の前では誰もが言葉を失う。
それが例え異世界の人間であっても。
「へぇ~、そうなんですの! すごいですわねゴン太さま」
異世界の神、プラム・ウィータ。その眷属である乃亜も異世界の神だった。
乃亜、という名はプラムから与えられた使命、プラムの愛し子を守れ。
その使命を果たすためにゴン太の主であるその愛し子と暮らすことになり、その国に合わせて乃亜と名乗ることにした。
本当の名はノアール・シロップサワー。神の位階では真ん中に相当する上級神だ。
ゴン太はゴン太で犬が神に至った犬神と呼ばれるものだ。
その神としての力で、セナと念話ができ、セナとメープルの使える転移魔法と繋げることで、ゴン太たちとその主がいる世界とは別の世界に月2回だけ往復することができるらしい。
月2回というのは主にゴン太の魔力の都合で、ゴン太が力を増せば行き来できる回数も増えるらしい。
今回は久蔵をこちらの世界に連れてきて、特設の焼き台で蒲焼きを作ってもらうことにした。
また、別の神の力を借りてこの世界とゴン太たちの世界を自由に行き来するトキワなるものもいるとのこと。
そう説明されて、素直に信じて感心するリーリャ。世界は知らないことで溢れている。
「むっ……」
ウナギを炭火から離すと、壺に入ったタレに漬け込み、しっかりと身に絡ませたあと再び炭火へ。
タレが焼ける匂いがたまらなく食欲を掻き立てる。
久蔵が真剣にウナギを焼く横で、同じく真剣な顔をして釜に向き合うセナ。
かまどに置いた鍋で何かを作る乃亜。
それを笑顔で見ているシェラタンとメープル。
伏せて寝ているゴン太。それぞれが思い思いに過ごしていた。
いただくばかりでは申し訳ないとアリーリャは先ほど狩ったビッグクラブを渡すと久蔵が笑った。
「こんなデカい蟹、もらっていいのかい?」
「ええ、ウナギのカバヤキ? をいただきますのでせめてものお礼ですわ」
「蟹、好きなんだ。ありがとな嬢ちゃん。……おっと、できたぞ」
ウナギのカバヤキ。
それはアリーリャが知ってるニョロリとは全く別物だった。
「ごはん炊けました!」
「お吸い物もできました~」
キューゾウさんに合わせたかのようなタイミングでお2人も何かを作り終わったみたいですわ。
「じいちゃん! アリーリャお姉ちゃんにいいとこあげてね!」
なんてシェラタンちゃんの声掛けに頷くキューゾウさん。
そんな! いいんですの?! ありがとうございますわ!!
乃亜さん、セナさんもありがとうですの!!
セナさんが黒い箱に釜から白い何かを詰め始めると、乃亜さんがお椀にスープを入れます。
スープは私の元へ、黒い箱はキューゾウさんの元へ行きましたわ。
キューゾウさんが箱を受け取ると、さっきまで焼かれていたウナギのカバヤキを包丁で切って上に乗せ始めます。
ああっ、いけません! なんていい匂いなんでしょう!
そこに焼くのに使っていたタレをかけています。食べなくても絶対美味しいってわかりますわ!
「お待たせしました、うな重です」
キューゾウさんがそう言って私の前にウナジューを置いてくださいます。
ニョロリではございませんわ。認めましょう。
これはウナギ、ニョロリを超えた美味しいお魚ですわ~!!
それでは早速いただきましょう。
「いただきます」
ウナギを一口。……うんっっめぇですわ!
皮がパリッとして、身は柔らかくホロホロ。
なんじゃこりゃですの!! 下の白い粒、乃亜さんがごはんとおっしゃっていたものも一口。
こちらも甘くて美味しいですわ!! ……これもしかして一緒に食べたら。
やっぱり! 相乗効果で超うんっっめぇですの!!
ふと気になったお吸い物、と呼ばれたスープ、これも優しい味で口の中に残った濃いタレの味を流してくださいますわ! こんな贅沢してもいいんでしょうか?
なんて思っても手が止まるはずもなく、はしたなくもひたすらに目の前のウナジューを食べ進めた私でしたわ。
このあとすぐに後編を投稿します。




