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アメージンググレース

作者: 星伝

これは以前、筆者が作ったものを推敲してあげたものです。

いろいろと不自然な部分もありますが、そこも含めて、ゆったりと一息入れる時にでも、よんでみてください。

 僕はこの日、一つの・・・と、一つの・・・をもらい、多くの・・・をもらい、


 そして、


 一つの・・・を失った。




 ある日曜日、僕は早くに目が覚めた。

 特に何となく、ただ単に目が覚めた。


 「・・・まだ、昨日のこと引きずってるのかな。」


 不意をついて口からため息とともに漏れる。

 実は昨日、テストの成績が帰ってきて親にしこたま怒られたのだ。

 その時間、約4時間。

 最後には母が泣き出す始末。

 やってられない。

 父の顔を思い出す。


 「お前はやればできるはずなのに、何でしないんだ。」


 その顔は静かな怒りをたたえていた。


 「ドンマイ、兄貴。気にすんな。」


 妹は慰めてくれる。

 だけど、それらの言葉は俺には届かない。

 僕がほしいのはそんな言葉じゃない。

 もっと他の・・・・・・。


 「散歩しよ。」


 声に出すことで気を紛らわし、服を適当に着替えると家を出た。


 しばらく歩いていると、山の麓に着いた。


 「こんなとこに教会なんてあったか?」


 そこは多くの緑に囲まれて、一種の聖域を醸し出していた。

 教会の扉を開けると、真っ赤に咲き誇ったアマリリスの花が目についた。

 それを視界にとらえながら教会内に入っていく。

 電気がついていないためか、少し薄暗い。

 ステンドグラスから差す光が、アマリリスのみを照らす。


 (祈ってみるか。)


 今まで神頼みというものをしたことのない俺は、御堂の最前列の長いすに座ると目を閉じ、心を静めた。


 さて、何を祈ろうか。

 幸福がありますように・・・か?

 お金が手に入りますように・・・か?

 素敵な出会いがありますように・・・か?

 僕を慰めてくれますように・・・か?

 それとも・・・?

 ・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ばかばかしい。やめた。


 垂れていた顔を上げ、目を開く・・・と真っ赤な髪の少女がそこにいた。


 「・・・・・・。」


 驚きのあまり、声が出ない。

 ここの教会は古いのか、扉が開くとかなりの音がする。

 床が石のため、足音も響く。

 そして、俺はここに入る前に誰もいないことを確認したはずだ。

 なのに目の前のかわいらしい少女は首をかしげながらそこにいる。


 「・・・・・・だれ?」


 思わず聞いていた。

 普段の俺なら、人付き合いが苦手なため、目をそらしてそのまま立ち去る。

 今回もそのはずだった。

 なのに、口をついてその言葉が流れるように発される。


 「キミは、だれ?」


 困惑の中、無意識のうちにもう一度問いかけていた。


 「・・・リリ。」


 その声は綺麗だった。

 なにか靄のかかった夢見心地のような、それでいてすんで頭まで響いてくるそんな感じの・・・。


 「キミは?」


 今度は俺が問いかけられた。


 「湊。」


 短く答える。

 別にわざとじゃない。

 ただ、混乱しているだけだ。

 不意に、風が吹く。

 まるで、落ち着きなさいといわれているように。

 先ほどの風で翻った髪に目をとめる。


 「綺麗な髪だね。それに、うれしそう・・・」


 さっきからリリの顔が笑っている。

 そして、その赤い目も爛々と輝いている。


 「わかる?わたし、うれしいの。」


 タタタッと軽やかに踊る。

 それにあわせるようにして、緑色のワンピースも一緒に翻る。

 そして、ピタッと十字架の前で動きを止めた。

 こちらを振り向く。


 「だけど、・・・君は悲しそう。」


 今度は少し、目を落として言う。

 僕は彼女のそばに来ると無理矢理笑った。


 「そんなことないよ。ちょっと君にあって驚いているだけだよ。」

 「うそ。」


 すっぱりと切り捨てられた。

 僕の腕を握って顔をのぞき込んでくる。


 「そんな泣きそうな作り笑いしないで。・・・心が震えてるよ。」


 ・・・どうやら彼女にはお見通しのようだ。


 「・・・ごめん。」


 素直に謝る。

 どうしようか、やっぱり理由を言うべきかな。

 だけど、なんか・・・違う気がする。

 まぁ、一応・・・


 「じつはさ、俺・・・」

 「言わなくていいよ。」


 説明しようとしたら、不意に遮られる。


 「言って楽になるならいくらでも聞いてあげる。」


 静かに、歌うように話す。


 「それで、君の心の震えが止まるなら、たとえ夜中になって、そして朝が明けても聞いてあげる。」


 ゆっくりと、僕の周りを回る。


 「だけど、そうならないんだったら話す必要はない。」


 窓際までたどり着くと、窓を開ける。


 「少なくとも、まだ迷っているうちから、話すことはないと思うな。」


 再び俺の元に戻ってくる。

 そして、俺の目をのぞき込む。


 (わかった?)


 彼女の赤い瞳がそう問いかけていた。


 「・・・うん。」


 返事を聞いたリリはうれしそうにまた笑った。


 「ねぇ、ピアノは弾ける?」


 不意に尋ねられる。

 いや、


 「弾けるでしょ?」


 確信を持って問いかけてくる。


 「うん。」


 確かに俺はピアノを弾ける。

 だけどなぜ、彼女はそのことを・・・


 「こっち来て。」


 不意に俺の腕をつかむと、いつの間にかあったグランドピアノの前に座らせられる。


 「なにか弾いて?」


 期待の込めて俺を見る。


 「はぁ。」


 俺はため息を一つつくと、指を鍵盤に走らせる。

 ベートーヴェンの月光ソナタ、第一楽章。

 音色が、教会をくすぐる。

 俺は夢中になって弾いた。

 久しぶりだった。

 こんなに気持ちを込めて、直で弾けるのは・・・

 まるで自分が自分でないみたいだ。

 気がつくと、最後まで弾き終えていた。


 「綺麗だね。」


 優しそうな顔でこっちをジーッと見つめていたリリ。

 おもむろに立ち上がると、彼女は僕の後ろに立って抱きしめる。

 普段の俺だったらそれはもう慌てただろう。

 だけど、今は素直に頭を、体を、そして心を預けられた。


 「私からのお返し。」


 そう一言呟くと、体を一歩引き、その透き通った声で歌い始めた。


 Amazing grace how sweet the sound


 アメージンググレース。

 その歌詞が、教会に響き渡る。


That saved a wretch like me,

I once was lost but now am found,


 彼女の歌声に誘われて、窓から小鳥が入ってくる。


Was blind but now I see.


 俺の心にしみこみ、安らぎを与えてくれる。


We've no less days to sing God's praise

Than when we'd first begun.


 歌が終わるとともに、再び鳥たちが飛び立っていった。

 そして、俺は・・・泣いていた。

 感動した。

 それしかない。

 否、たくさん心に感情があふれかえっているが、それを表す言葉が思い浮かばない。

 とにかく俺は、


 「ありがとう。」


 そういって、彼女を抱きしめた。



 どれくらいそうしていただろう。

 不意に、携帯のバイブレータが震えた。

 見てみると、もう十二時を過ぎていた。


 「帰らなくちゃ。」


 とても名残惜しいが、家族に心配をかけるわけにはいかない。


 「そう、・・・もうそんな時間なの。」


 彼女も名残惜しそうだが、その表情にはしょうがないという顔も浮かんでいた。


 「また来るよ。」


 そういった。

 リリにそんな顔をさせたくないから。

 だけど、彼女は首を振る。


 「もうあえないわ。」


 なぜ、と問おうとした俺を彼女は瞳で制する。


 「そういう運命だから。」


 そんな・・・


 「だから、これ。」


 そういって、俺の手に一つの音叉を手渡す。


 「あなたのお守り。」


 必要ないと思うけど・・・と続けるリリ。

 音叉は何の変哲もないものだった。

 試しにならしてみると、小さい音だが、しっかりとした()の音が鳴る。


 「ありがとう、楽しかったわ。」


 音叉の音に聞き入っていた俺は慌ててリリが居たところを見る。

 しかし、そこには誰もいない。



 ただ一輪のアマリリスがそこに落ちていた。



 「ありがとう。」


 俺はその花に感謝を述べて、歩き出す。

 右手には音叉、左手には一輪のアマリリス。

 そして、心には・・・



 三年後、俺はクラシックピアノで世界的に有名になった。

 父も母も、そして驚くことに妹も一緒になって音楽を楽しんでいる。

 そして、あれから俺には新たな日課ができた。

 それは・・・



 カーン・・・



 毎朝、心を澄まして音叉の音を聞き、箱に入った、いまだ枯れることのない不思議なアマリリスに向かって、


 「おはよう。」


 いや、リリに話しかける。



FIN...

いかがでしたでしょうか?

冒頭の・・・には、あなたの言葉を入れてみると、より深く読めるかもです。

感想、誤字脱字等、お待ちしてます。

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