第八話
(……えーっと…… )
真宙は身じろぎもせず、この今自分が置かれている状況について考えた。
夕方、視界がぐらぐらと揺れていたとこから、まるで記憶がない。
おでこには氷のう、枕は氷まくら――熱でも出ていたのだろうかと、ここまでは真宙も推測できる。
しかしこの状況、何があったのだろうかと思いあぐねていた。
先ほど真宙は目を覚ました。
夜中の二時を少し過ぎたところだ。
真宙は左の手に違和感を感じて、何気なく左手を動かそうとするが、なぜか動かない。
不思議に思って見ると、清盛の寝顔がそこにあった。
「お、おい…… 」
真宙は小さく清盛に声をかけるが、まったく目覚める気配はなかった。
左手は真宙の左手と繋がっており、なぜか指と指が絡まりあっている。
まるで恋人たちのそれのように――
(こ、恋人!? )
自分の考えに驚き、真宙は飛び起きた。
すると自然に、繋がっていた手が引っ張られ、清盛が目を覚ます。
真宙が口をパクパクしながら、清盛を見る。
清盛はふぁっと生あくびをして、真宙の顔を見た。
「具合、良くなったか? 」
清盛の静かな声に、真宙は背筋がぞくぞくとするのを感じた。
「具合は……うん。でも、あの、これ……は? 」
しどろもどろになりながら、真宙は左手を見る。
「あぁ、お前が急に繋いできたんだ。
手を離そうにも、お前が握り締めてはずせなかった。
――もう離してもいいか? 」
「あ、あぁ――ごめん! 」
真宙はぱっと手を離した。
すると、くくぅ、と真宙のおなかが鳴る。
ふっ、と清盛は小さく笑い、真宙は恥ずかしさのあまり顔がぱっと赤くなった。
「小林が夕飯持ってきてくれてたんだ。お前の机の上に置いてあるから食えよ。
――立てるか? 」
「立てるよ」
そう言いながら立ち上がる真宙だったが、どうも体がふらふらして上手く立つことができない。
「あれ――?? 」
ぐらりと体が揺れ、倒れそうになる。
幸か不幸か、真宙は清盛に支えられ、床にぶつかることはなかった。
――どきり――
抱きしめられて感じた清盛の体の温もりが彼を包みこみ、真宙は思わず瞳を閉じその温もりを体の感覚すべてで感じようとする。
(――あ、ありえねぇ! )
一瞬でもそう思ってしまったことに対し、真宙は焦った。
そして『ひろちゃんが女の子になったら、おそろいのお洋服を買いましょうね』とにこやかな顔で話す母を思い出した。
(お、女になってたまるか! )
真宙は決意を新たにするが、清盛を少しずつ意識していることをうっすらと自覚していた。
清盛が慣れた手つきで真宙をベッドに座らせると、夕食を持ってきてくれた。
「あ、ありがと」
真宙は清盛に礼を言うが、目は彼を見てはいない。
「いただきます……」そう言って食べ始めようとするも、動揺の収まらない真宙はうっかり箸を落としてしまう。
清盛その箸を拾い上げるといたずらっぽい笑顔を浮かべ「食べさせてやろうか。宇野君」とわざとからかった。
真宙は赤い顔をさらに赤くしながら「一人で食べれるってっ!」と言い清盛から箸を奪い取ると慌てて食べ始める。
「ご馳走様!」
夕食を完食し、両手を合わせる真宙。
清盛は食器を机に戻すと、真宙の頭を数回撫で「もう寝ろ」とだけ言う。
40度くらい熱が出たと聞いていた真宙は素直に頷いた。
「――おやすみなさい」
「あぁ」
部屋の明かりを消し、二人はベッドにもぐりこむ。
しばらくして真宙は清盛にあることを確認すべく声を掛けた。
「や、山田? まだ起きてる? 」
「――なんだ? 」
「あの、俺――記憶がないんだけど、いつパジャマに着替えたんだっけ? 」
真宙の声がやや上ずっているのを清盛は聞き逃さなかった。
「覚えてないのか?俺が着替えさせてやったんだよ。
汗がすごかったから下着も取り替えたんだぜ」
「!!っ――へ……そ、そりゃ、悪かったな。
そっか、ははは……」
真宙は恥ずかしさのあまり体が火照っていくのを感じた。