第四話
(何食べたっけ?何にも覚えてないよ――)
食事中、二言三言話をし、道案内をしてくれたのが清盛だとわかった。
真宙は御礼を言ったが、その後話は続かず、ギクシャクとした雰囲気は残ったままだった。
食堂で食事を終え、部屋に帰ってきた二人だったが、清盛は真宙のことなど気にもしていないのか、さっさと自分のベッドに腰を下ろし、ぺらぺらと雑誌をめくっている。
真宙は自分の荷物を整理しようとするも、先ほどのことが気になって、つい清盛を見つめてしまう。
(あいつ、なんだよ。なんで何も言わないんだ?)
そう思っていると、清盛が真宙に目をやった。
「なんだ?」
心地のよい低音。
真宙は少しどきりとする。
「――っ!なんだ?じゃないだろ?
さっきのアレ……なんなんだよ」
出だしの声は勢いよかったが、途中で言葉が小さくなっていき、それと比例するかのように真宙の顔は赤くなった。
「アレ?……あぁ」
清盛は意地悪そうな笑みを浮かべて言う。
「お前が急に手を引っ張るからだろ?――別にお前に手をだそうと思ったわけじゃないぜ。
それとも――出してほしかったのか?」
「このっ!」
意地悪く笑う清盛に真宙はかっとなり、飛び掛った。
しかし、気持ちとは裏腹に、歩きすぎて疲れきった足は言うことを聞かず、もつれる。
(ぶつかる!!)
真宙は目をぎゅっと瞑った。
(――――あれ……痛くない? でも、なんだ? )
そっと、目を開けてみる真宙。
真宙は勢いよく倒れこんだが、清盛が真宙の華奢な両肩を支えてくれたお陰で怪我をせずに済んだ。
しかし勢いが良すぎたせいで清盛も巻き込まれた形になり、彼は真宙ごと後ろへ倒れた。
柔らかいベッドがなければ、彼のほうが怪我をしていたことだろう。
そしてその光景は一見すると、真宙がベッドに清盛を押し倒しているようにも見えた。
「――って!!」
真宙は目を白黒させながら、清盛から離れようとしたが、慌てすぎたせいでバランスを崩してしまい、軽く清盛の唇に触れる。
「ななななななななっ なんなんだよっ」
真宙は起き上がるや否や、自分の唇を乱暴に腕でごしごしとこすった。
自分が悪いのはわかってる。
清盛が真宙を支えてくれたから怪我をしなかったことは理解できているが、そう叫ばずにはいられなかった。
(今の『キス』じゃないよな。ちがうよな。不慮の事故だよな?!)
清盛は体を起こし、驚きの表情を浮かべながら唇に手をやる。
「今、今の違うからな! 事故だからな!」
それだけ言うと真宙は「もう寝る!」と叫んで、布団にもぐった。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
(――ファーストキスだったのに――)
悔しさと恥ずかしさで涙が止め処なく溢れてきた。