第三十九話
NO・38
「おかえり~! ひろちゃん♪
温泉たのしかったわよぉ~。
あ、遼君。おじゃましてるわね」
遼の家の扉を開けると、そこには温泉から帰ってきた両親たちが楽しそうに談笑していた。
傍らには明らかに出かける前にはなかった酒の瓶が無造作に転がっている。
「おかえりって……母さんの家じゃないだろ?」
真宙はがっくりとうなだれてつっこむがそこは全く気にしていないらしい。
「遼くんもおかえり~
昨日はホント楽しかったのよ~
あ、そうこれお土産!
ひろちゃんと一緒に食べてね~」
にこにことしながら真宙の母、美宙が箱を手渡した。
名物温泉まんじゅうと書かれている。
「それにしても真宙ちゃん。随分美宙に似てきたわね~。
ほんと美人さん! 遼のお嫁さんになったらいいのにー」
「なっ?!」
顔を赤く蒸気させて綾瀬の母がうっとりと見つめながら言う。
「でしょー?
私もひろが綺麗なドレス着てぇ~、可愛いお嫁さんになったらいいな~って思ってるのぉ。
遼君かっこいいし、ほんとステキよねぇ~」
うふふ。と母二人は夢見る少女のように笑った。
「いやいや! 俺はまだ真宙が嫁に行くなんて認めないぞ!
まだ高校生じゃないかっ!
俺の目の黒いうちはそんなの――」
「まぁ! 真さんってばひろちゃんのドレス姿見たくないの?
それに結婚は早いって言いますけどねぇ、私が真さんと結婚したのって16歳のときで……」
「……行こうぜリョウ」
「ああ……」
俺は男だと突っ込む気力もない様で、真宙は深いため息をつくと両親たちのどうでもいい話に背を向けた。
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「それにしても、見せたらよかったんじゃね? ヒロのドレス姿」
一口サイズのまんじゅうをほうばって綾瀬が尋ねる。
「ぜっっったいヤダ!」
眉間にしわを寄せながら真宙もまたまんじゅうを口に放り込んだ。
「でもさー、結構お前似合ってるよな。姫的なコスプレ……」
右手に今日の撮影の記念にと貰った写真をひらりとさせて綾瀬がしみじみと言うと、真宙はかっと顔を紅くした。
「な、なんでそれお前持ってんだよ?!」
「え? ピエロのにーさんが記念にってくれたけど? あぁ、そういやその時お前居なかったからヒロの分もって渡されたんだった」
はい。と渡されたのは王子と姫の恥ずかしいくらいの乙女チックな写真。
「……お前、この写真どうすんの?」
真宙が恐る恐る聞くと綾瀬はにやりと笑い一言。
「せっかくの記念だから部屋に飾るかなぁ」
「それだけはほんとマジ勘弁して下さい。
そんで親たちにもぜったい見せたりしないで!」
ちょっと涙目になりながら真宙は上目遣いにそう言った。