第三十八話
「あー肩こった!」
真宙はそう言うと腕をぐるぐると回した。
「それにしても真宙がドレス着るとは思わなかったな」
くくくっと笑う綾瀬に真宙は少し顔を赤らめる。
「そ、それは誰にも言うなよ?!
特に母さん! 何言われるかわかったもんじゃないし!」
真宙はちょっと膨れて綾瀬の顔を見上げる。
綾瀬は返事の代わりに真宙の頭に軽く触れた。
遊園地からの帰り道。夕日が彼らの影を伸ばし、優しい風に乗ってカレーの香りがふわりと鼻先をくすぐる。
「あ、結構貰ったからリョウに今日おごってもらった分返すよ」
真宙はそう言ってかばんに手をかけようとしたその時、綾瀬が真宙の手をつかむ。
「――遼?」
「別にいいよ。
俺も謝礼貰ったし、それにヒロが一番大変だったろ?
足、大丈夫か?」
「あ、うん。平気……ってかなんで足の事知ってんの?」
「あぁ。真宙がメイクを落としてる時、あのピエロが『お前が足ひねったから気をつけてやれ』って。
きつかったら言えよ? もし歩けないようならおぶってやるから」
「あ、ありがと」
繋いだ手とつながる影を見て、真宙は綾瀬の優しさになんだかくすぐったさを覚える。
そして――清盛のときとはまた別の――特別な感情が芽生え始めていた。