第三十五話
「じゃあ始めましょうか! 」
「それにしてもお肌きれー! 」
「私たちがかわいくしてあげるからね~! 」
真宙はスタッフの女性に囲まれ、顔やら髪やらを触られる。
「ドレスは……これと、あとウイッグも必要か。ちょっとショートすぎるし。
あ、笹田さん、ドレスに似合う靴と装飾品よろしく」
彼女たちは固まっている真宙をよそにてきぱきと衣装の用意をし始めた。
一通りの準備が終わり「じゃあ始めましょうか」と言うやいなや真宙の服のボタンをはずし始める。
「そ、それくらい俺がやるからっ!」
真っ赤になってシャツのボタンを押さえる。
「そう? お姉さんは全然オッケーなんだけどなぁ。
じゃあさ、このドレスに着替えてね。で、終わったら声かけて」
そう言うと仕切り代わりのカーテンをさっと引き女性たちはさっきのピエロについて話し始める。
「やっぱりさー、かっこいいのに何でピエロなんだろって思わない? 」
「思う思うっ! だって、王子様役の小高くんよりカッコイイよねぇ」
「そうそう! あ、かっこいいって言えば真宙ちゃんの彼氏の遼君! 彼もいいよね~」
「あ、あの……。遼は幼馴染だし。俺男なんですけど」
真宙がカーテン越しにそう言うと女性スタッフたちはからからと笑った。
「そこは敢えて触れちゃダメなのに~」
「いえ! そこがあるから萌えなんですって!」
「ま、似合えばどっちでもいいのよ」
彼女たちの勝手な意見に真宙は閉口する。
真宙はまるで自分の母が3人に増えたような感覚に少しめまいを覚えた。
「……あの、着替え終わりましたけど……」
真宙はそう言ってカーテンを開けた。
「はいはい~。
じゃあ、時間も押してるからガンガン行くわよぉ~!
はい!ここ座って!」
スタッフはそう言うと真宙にメイクを施した。
普段メイクなど全くしない真宙にはどうしていいのか解らず、「目を閉じて!!」「口を少し開いて!」などの命令にただ従うだけだ。
そのうち彼女たちの手も止まり、ようやく「真宙ちゃんお疲れ! 」との声を聞き真宙は思わず小さくため息をついた。
「ねぇ! 見てみて! すっごくかわいくなったわよっ! 」
スタッフのうちの一人が真宙を大きな鏡の前に連れていく。
「げっ! これ、俺?! 」
真宙の目の前に姿を現したのは白いドレスを着た美しい少女が立っていたのだ。
「こらこら! そんな恰好で『俺』とかいわないの」
「俺……やっぱりやめたい。……こんな恥ずかしい恰好で遊んでなんかられないよ……」
真宙は恥ずかしさのあまり消え入りそうな声で言う。
「大丈夫大丈夫っ! 私たちが羨むくらい綺麗になったんだから! 」