第三十四話
「そんなの俺聞いてねぇっ! 」
真宙はたくさんの衣装がある部屋でピエロに文句を言った。
「それは仕方ないだろ。今さらだし。
仕事だと思って割り切ってやれよ。俺だって割り切ってやってんだからな」
ピエロは腕を組んで真宙とにらみ合っている。
「ど、どうしたんだい?
なんだかトラブルだって聞いたんだけど……」
どたどたとやってきたのはあのきらびやかな衣装のおじさんだ。
「園長。こいつ、衣装を着ないって言うんですよ」
やれやれと言った口調でピエロは真宙を見る。
「どうしたんだね? さっきはとってもやる気だったじゃないか……」
園長は困り顔でズボンからハンカチを取り出し汗を拭く。
「だって、衣装って……。
なんで俺がドレスなんて着ないといけないんですか」
「へ……」
園長は目を丸くしてピエロを見た。
「こいつ、オトコなんです」
ピエロはため息交じりに答える。
「オトコ、男っ!
う~~~~~~ん……。
でも、もう宣伝もしちゃったし、ポスターもあるし、遊園地のパンフレットだって……」
園長は真宙の顔を見ながらうなりを上げた。
「お前、仕事と思って割り切れ。
それにこのまま衣装に着替えないと違約金取られるぞ」
「い、違約金?! 」
「そりゃそうだろ。ここまで大々的に50万人目のペアだって言っておいていまさら辞退できると思ってんの?幸いペアっつっても『異性のペア』って言ってないことだし、お前が衣装着てここで遊べば丸く収まる。そのうえ謝礼も出るんだぜ?
どうすんだ?違約金渡すか、謝礼貰うか。二つに一つだけど?」
真宙は「衣装着ます……」と悔しそうに呟いた。
「おし。解った」そう言うとピエロは女性スタッフのところに真宙を連れていく。
「終わったら呼んでくれ」
そう言うと彼は衣装部屋を後にした。