第三十三話
「遊園地? 」
「うん。ほら去年出来た遊園地!
俺ら受験だったから、終わったら行こうっていってたじゃんっ」
「あぁ、あそこか」
「……だめ? かな? 」
綾瀬は真宙の頭をぽんと撫でると「絶叫系乗るぞっ! 」と言った。
去年オープンしたばかりの真新しい遊園地には『世界のバンジージャンプ』や『本物続出っ!お化け屋敷』『超巨大!日本一の観覧車?!』『10分間ノンストップ!絶叫マシーン~君はGに出会えるか?!~』などなどギャグで作ったような看板が所狭しと掲げられている。
「わ~、すげ~」
真宙は感嘆の声を上げると早く入ろうと綾瀬の手を取って入場ゲートをくぐった。
「おめでとうございま~~~っすっ!!!」
突然現れた怪しげなピエロと遊園地マスコットキャラクターのアソ・ボッチが真宙と綾瀬の前に躍り出る。
「えっ? な、なに??!」
急に鳴り響くファンファーレ。
「あなたさま~方は、御来場500000ペア目ぇでござ~いま~すっ!! 」
怪しげなピエロは変な口調で説明する。
アソ・ボッチは大きなリアクションでピエロの説明に頷くと真宙たちの周りを楽しそうに踊りだした。
「さぁ~さ、あそこにあるテレ~ビキャメ~ラ~に向かってコメントぉ~どうぞっ!!」
真宙はマイクを急に渡されて状況が全くつかめないまま「あ、ありがとうございます」とコメントする。
すると――パチパチパチパチ! あちこちから拍手が聞こえてきた。
気がつけば遊園地の職員や遊びに来ていたお客さんたちに囲まれている。
「そし~ってこのヒモひっぱって~! はいっ!!」
ピエロは綾瀬に白いひもを手渡す。
戸惑っているとピエロはどすの効いた声で『早く引け!みんな待ってるから』と囁く。そのコミカルな出で立ちとは真逆の態度に、綾瀬は慌ててひもを引っ張った。
「おめでとぉ~~~~!!!」
くす玉が割れ、キラキラの紙吹雪が舞い「祝☆500000ペア!!」という垂れ幕が勢いよく飛び出てきた。
「さぁ~さっ! お二人はこちら~にどうぞぉ~~~っ!」
ピエロとアソ・ボッチに手を引かれ、特設のステージのようなところに連れて行かれると、ずいぶんときらびやかな衣装を身にまとった中年のおじさんがニコニコとしながら二人を出迎える。
「あなたたちは私どもの遊園地、開園から数えて実に50万人目のペアです。
そこでその記念として、乗物乗り放題パス1年間無料券をあなたたちにプレゼントしたいと思います。
えーっと、名前は何かな? 」
おじさんはそう言うと真宙と綾瀬の顔を見た。
「宇野真宙……です」
「綾瀬遼……」
アソ・ボッチからマイクを向けられて、二人は良く分らずに名前を告げる。
「では改めて! 」
おじさんはこほんと一つ咳払いをすると、カメラに向かってこう続けた。
「真宙さん、遼さん!これからもこの遊園地をたくさん利用してくださいね!
1年間無料パスをどうぞっ!!
そして今日あなた達にはこちらで用意した衣装に着替えていただいて、記念撮影などをしていただきたいんですがどうでしょう? 」
「えっ? 」
真宙たちが躊躇しているとピエロは握手をしながらこっそり「謝礼付きだぜ?」と言う。
ピエロが低い声で真宙に囁くと、真宙はきらりと目を輝かせた。
「謝礼って? お金? 」
「そう。ちょっとしたバイトだよ。
着替えて写真撮ってここで遊ぶだけで貰えるんだから楽なもんだろ? 」
真宙は綾瀬を見て『いい?』と小声で聞く。
こくりと頷く綾瀬を見て、真宙はにっこりと笑うと
「よろしくお願いします! 」とおじさんに返事をした。