第三十二話
真宙が見たいと言っていた映画は『純愛ラブロマンス』ではなく『痛快アクションコメディー』である。
当日の初回と言う事を抜きにしても、おおよそカップルがデートで見るような映画ではなく、そのためカップルシートが余っていたのだろう。
「リョウ、リョウ」
小声で真宙が囁いた。
「なんだよ? 」
「俺らだけじゃないじゃん。男同士でカップル席の奴」
横を見ると確かに体格の良い男が二人カップルシートに座っている。
「シートの名前なんてやっぱどうでもいいんじゃね?
この映画すげー楽しいんだってよ? 前評判が良くてさぁ―― 」
真宙の言葉を遮るように映画館の中は暗闇に包まれ、すぐスクリーンにこの映画館のマスコットキャラクターの『エイガンくん』と『シアーちゃん』がスクリーンいっぱいに現れて映画館内での注意事項を面白おかしく説明し始めた。
綾瀬がふと横を見ると、何故かその説明に真剣に見入っている真宙がいた。
あまりにも熱心にスクリーンにかぶりついているその姿を見て、口角が緩むのを感じる。
――ヒロには言わないでおこう――
綾瀬は先ほど真宙が言っていた『他のカップルシートの客』を横目で見ながら思う。
真宙の角度からは見えなかったんだろうが、綾瀬の位置からは男同士で手をつないでいるのが偶然にも見えていたのだ。
彼らは多分本物の『カップル』なのだろう。
映画はテンポよく進み、1時間40分があっと言う間に終わってしまった。
「あー、面白かった! 」
真宙は明るくなった映画館でうーんと背伸びをする。
あれだけあったポップコーンは既に空になっており、綾瀬はクスリと笑う。
「なぁ、せっかくなんだしもっとどっか行きたいんだけど。
……でも、俺金ねーしなぁ。
ねぇ? リョウ……」
ちょっと上目遣いに綾瀬を見る真宙。
傍目からみると、ちょっとボーイッシュな言葉遣いの美少女が彼氏に甘えているようにしか見えない。そのせいか、映画を見終え出口へ向かっている客たちのちらちらと視線を感じた。
「どこかって? 」
綾瀬はそんな真宙の顔をまじまじと見る。
――やっぱり何か雰囲気が変わった気がする――
そう思っていると真宙は満面の笑顔で「遊園地に行きたい! 」と元気よく答えた。