第三十一話
「なぁなぁ。これからどうする? 」
真宙は綾瀬が作った朝食をパクリと食べながら言う。
「あぁ、どうしようか」
綾瀬はサラダをフォークで刺しながら真宙の顔を見ずに答えた。
「俺さ。見たい映画あるんだよねー」
にやりと笑い真宙は綾瀬の顔を覗き込む。
「ねぇリョウ? 一緒に見に行こうよぉ~。お前のおごりでさぁ」
「お前、それが目的なんだろ」
じろりと真宙の事を見る綾瀬。
真宙はネコのようなくるりとした目で彼を見つめる。
「だって俺、いま金ほとんどないもん」
ちょっと高めの甘い声はまるで鈴の音のような心地よい響きを醸し出した。
「威張るようなことかよ」
綾瀬はふぅとため息をつくと今回は特別だぞと言った。
「やった~! あの映画今日で最終日なんだよね。
DVDになるまでちょっと待ちきれないしさぁ」
ニコニコと笑いながら話す真宙は普段よりも一層かわいらしく見えて、綾瀬は自分の特別な感情を悟られまいと冷静を装うのに必死だった。
「お客様、生憎普通席は空きがない状態でございます」
チケット売り場の女性はすまなそうにそう言った。
連休中という事もあり、映画館はいつにもまして盛況していたので当然といえば当然の結果だ。
「――ですが、特別席ならまだ空きがございますがいかがいたしますか?」
「特別席? ですか? 」
「特別と言ってもそれほどお値段は変わりません、ただ――」
「じゃあそれでお願いします!」
説明も終わらぬうちに真宙は横から声をかけた。
売り場の女性は綾瀬と真宙の顔を見てにこりと笑い「では特別席で」と言うとチケットを手渡した。
「お前なぁ、ちゃんと話くらい聞けよな」
綾瀬は座席を確認するとじっとりとした目で真宙を見た。
「えー。だって今日で最終だし、あんまり値段も変わんないし、どんな席で見たって別に俺は気にしないけど?」
そう言うと真宙は座席に座り、先ほど綾瀬に買ってもらったキャラメルポップコーンを口に放り込んだ。
「ってか、リョウだってそんな気にするタイプじゃないだろ?
まぁ――名前がちょっと『カップル席』ってのは気になるけどさ。
あ、ポップコーン食う? 」
真宙はしぶしぶ席に着いた綾瀬にポップコーンを進める。
でっかいバケツみたいな入れ物に溢れんばかりに入っていたポップコーンはいつの間にか1/4ほどなくなっていた。
「甘すぎるのはそんなに好きじゃないんだけどな」
そう言うと綾瀬はポップコーンをつまんで口に入れた。
口の中にキャラメル独特の味が広がる。
甘ったるい味に綾瀬は思わず顔をしかめた。
「リョウはあんま好きじゃないのか――。
じゃあ俺が全部食っていい??
初めてキャラメル味食べたけど、これすげーうまいしっ! 」
そう言うと真宙はなんとも幸せそうにキャラメルポップコーンを口いっぱいに頬張った。