表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/39

第二十九話

 真宙と綾瀬は小学校2年生からの付き合いである。

 当初は家が向かいにある、というくらいにしか接点は無かった。


 友達になったきっかけ。それは宇宙人騒動の辺りからだ。


 真宙は小学生時代からずば抜けてきれいな容姿をしていた。

 笑うととてもかわいらしく、ただいるだけで絵になるのだが、言葉遣いや行動はまさしく少年そのものであり、そのギャップも真宙の魅力になっていた。


 ある日、いつも太陽みたいに笑っている真宙がしょんぼりしていた。

 気になっていると、すぐに噂が流れはじめた。


 「マー君って宇宙人なんだって」


 その噂は瞬く間に広がっていった。


「だからあんなにきれいな顔してるのね」

「宇宙人ってたこみたいなヤツだろ? 大きくなるとああなるのかな? 」

「血の色が緑ってほんと?? 」


 本当にどうでもいい言葉が飛んだ。

 そして――気持ち悪いよね――と、子供たちは口にするようになった。


 担任の先生が噂に気が付き事態を収拾してくれた――表向きには、だが。


 子供は時として残酷なものだ。

 自分より劣るもの、何かが違うものがあると本能的に攻撃する帰来がある。


 きれいでかわいい真宙はいつしか『自分たちとは異なる異者もの』として認識されてしまっていたのだ。





「やめろよ。オレにかまうなよ! 」

 学校帰り、綾瀬は聞き覚えのある声に周囲を見渡した。


「お前本当に男なのかよ? 女みてーな顔して。

それより、大きくなったらタコみたいになるってマジ? 」

 上級生三人に取り囲まれているのは、小柄な真宙だ。

 やけに馴れ馴れしく上級生の一人は真宙の肩を掴んでいる。


「そんな訳あるかよ!

お前、頭おかしーんじゃねぇの?! 」


 頭ひとつ分ほど大きい上級生相手に、真宙は噛み付きそうな勢いだ。


「なんだとっ! 生意気だなっ」


 肩を掴んでいた上級生がどんっと真宙を突き放した。

 バランスを崩した真宙は道路に投げ出される。

 そのはずみでランドセルから教科書などが飛び出し、あたりに散らばった。


「なにやってんだよ」

 綾瀬は真宙と上級生の間に立ち、一瞥すると道路に散らばっている真宙の荷物を拾い集める。


「――おい。もう行こうぜ――」

 上級生三人は罰が悪そうにその場をあとにした。




「はい。宇野君」

「あ、ありがと」

 綾瀬が荷物を渡すと、真宙は少し驚いたようなはにかんだ笑顔を見せた。

「宇野君? ひじと膝のとこ、血が出てる」

「あ、ほんとだ」

 転んだときにすりむいたのだろう、擦れて血が滲んでいた。

「俺、絆創膏持ってるから……とりあえずそこの公園で傷洗おう? 」





「綾瀬。オレのこと、気持ち悪くないの? 」

 公園のベンチに座り、綾瀬に絆創膏を貼ってもらっていた真宙はぽつりと言った。

「なんで? 」

「なんでって……お前も知ってるんだろ?

オレの噂のこと……」

 真宙はうつむき、抑揚もなく呟く。


「別に俺、噂なんて気にしないけど?

宇野君は宇野君だろ? 

……先生も言ってたじゃん? 俺たち全員宇宙人だって。

だから――気にすんなよ」


 綾瀬はにかっと笑った。


 真宙も少しなみだ目になりながらふわりと笑う。



 それから程なくして彼らは親友になった。


 キーホルダーはその時から数年後の家庭科の時間に真宙が作ったもので『親友の証』と裏にローマ字で小さく書いてある。

 ――今はかすれていて、読み取ることもままならないが。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ