第二十八話
「すっげーいい匂いがするんだけど! 」
風呂から上がった真宙は満面の笑みを浮かべながら、まるで子犬か子猫のように綾瀬にまとわり付く。
「リョウって料理上手だったんだ。
すっげー以外! やっぱおばさんに料理習ったの?
おばさん、料理上手だもんなあ! 」
そういいながら綾瀬の目の前でひょいとから揚げをつまみ口に入れた。
「めちゃ旨! 」
そして真宙はもうひとつつまみ食いをしようとしたが、これは綾瀬によって止められた。
「こらこら。行儀悪いぞ。
もう少しで出来るから、お前はテーブルでも拭いておけ」
ほら、と差し出されたのは薄いピンク色の台拭き。花の刺繍が控えめにあしらわれている。
真宙は「ちぇーっ」と呟くと、ダイニングテーブルを拭きはじめた。
綾瀬は一通りの準備を終えると、先ほど真宙が拭いたテーブルに料理を並べていく。
二人で食べるにはちょっと多いくらいのおかずが瞬く間にセッティングされた。
「じゃあ、食べようか」
「うん! いただきますっ! 」
言うが早いか。真宙はまるで獣のように料理を平らげていく。
「――よっぽど、腹が減ってたんだな」
綾瀬はくすりと笑うと、真宙の頬についたご飯粒をぱくりと食べる。
「しょうがねーじゃん。
俺、今日は朝食くらいしかまともに食ってなかったんだし!
――あ、リョウの分まで食べちゃって、ごめんな? 」
少しだけすまなそうに謝る友人を前に、綾瀬は柔らかく微笑んだ。
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「おい、ヒロ。
起きろよ、ヒロ。
布団の用意できたぞ? 」
綾瀬が自室に真宙の布団を準備してリビングに戻ってくると、そこにはクッションを抱えて幸せそうに寝ている友人の姿があった。
「――ん、いや。もう食べれないし……」
真宙は寝ぼけているのか見当違いの返事をすると、すぐにまた寝息を立て始める。
「寝るんなら布団で寝ろよなー……」
綾瀬は真宙が抱えているクッションをそっとはずすと、抱きかかえて自室へと向かった。
真宙を布団に横たわらせると、風邪を引かないように布団を被せる。
そして綾瀬は彼の寝顔を見つめた。
「なんか――雰囲気変わった気がするな……」
具体的に何処が違うとは言えないまでも、何かが違う気がする――。
綾瀬はベッドに腰を下ろすと、ポケットから鍵を取り出しキーホルダーを眺めた。