第二十六話
「あーあー、何だってんだよ……」
真宙は小さく呟くと、目を伏せて足元の砂利を靴のつま先で転がす。
五月の風はまだ少し肌寒く、真宙は両手を自分のポケットに入れて寒さをしのぐ。
『GWには家に帰って来て』と母――美宙が言うので、連休早々に自宅に戻ってきた真宙だったが、呼び鈴を鳴らしても応答がない。
買い物にでも行ったのかと玄関先で待っていたが、もうかれこれ一時間ほど経過してしまった。
「携帯くらい持ってろっての」
真宙は未だに携帯を持っていない母に悪態をつきつつ、ぼんやりと砂利を見つめた。
(――腹、減ったなぁ。なんか買ってこようかな……。
でも、あんま金ねーしな……)
財布の中には千円。
これが真宙の今の全財産だ。
GW中なので、預金は下ろせない。どうせ家に帰るんだからと安易に考えすぎていたことを今更後悔する。
(家の鍵さえ忘れてこなきゃなぁ……)
一度は寮に戻ろうかと思ったのだが、如何せんお金が足りないのだ。
千円では寮から家まで往復できない。
その上食べ物を買うと片道分の料金すら払えなくなってしまう。
「……はぁ……」
真宙は仕方なく玄関先に座り込むと、減りすぎて少しきりきりと痛むおなかを騙しつつ携帯ゲームを始める。
暇つぶしにはもってこいのパズルゲームだが、真宙は全く集中できずに時計の針ばかりを気にしていた。
――どれくらい経っただろうか。
もうそろそろ夕方という頃になっても、美宙は帰ってこない。
「はっくしょんっ」
長い間外に居たせいで、真宙の体はすっかり冷え切ってしまった。
「なんで、帰ってこねーんだ!? 」
体を少し震わせて真宙は誰に言うわけでもなく独り言を言った――はずだった。
「おばさんたち、温泉旅行だってよ? 」
「へ??? 」
真宙は驚き、声のするほうを見る。
「ヒロは聞いてなかったのか?
なんか福引かなんかで当てたって聞いたけど? 」
「り、リョウ?! 」
「ヒロ。久しぶり」
リュウと呼ばれた男はやわらかく笑うと、真宙の手をとった。
「お前、どんだけ外に居たんだよ?手、氷みたいに冷たいじゃねーか。
――とりあえず、俺んちに来い」