第二十一話
「お帰り」
清盛の声が部屋に響く。
真宙はなんとなく顔を合わせづらくて、清盛のほうを見ないまま「ただいま」とだけ呟やいた。
「飯、行こうぜ」
清盛は真宙の態度を気にすることなく、見ていた雑誌を棚にしまうと真宙の腕を掴む。
「ま、まてよ」
いつもならそのままなし崩しに食堂に行くのだが、この日は違っていた。
真宙が清盛の手を抑えたのだ。
「なんでいつもお前はそうなんだよ。
俺、もう病人でもねーし、腕まで掴まなくてもいいだろ?
そうそう倒れたりしねえよ! 」
彼は顔を少し赤くして、清盛を睨む。
「――お前が――気になるんだ」
低く静かな声で言うと、清盛は真宙を見つめた。
その瞳は優しく自愛に満ちていてはいたが、一抹の不安を掻き立てるような目だった。
清盛の表情に戸惑いつつ、真宙は目を逸らしもごもごと話す。
「だから。もう病気治ったって……」
「違う。
そういう意味じゃない」
真宙の言葉を、清盛はすぐに否定する。
「お前のことが好きなんだ。
だから、気になる。放っておけない」
「え――? 」
「好きだ。真宙」
不意に真宙は清盛に抱きしめられた。
その温もりに、真宙は思わず清盛の背中に腕を回して抱きしめたくなる衝動に駆られる。
「――っ!! 」
真宙ははっとして清盛の手から逃れる。
「俺、男だぜ?
お前、何考えてんだよ! 」
耳まで真っ赤になりながら、真宙は清盛と視線を合わせることなく声をあらわした。
「別にお前が男だろうと女だろうと関係ねーよ。
俺はお前が好きなんだ。
――真宙は俺のこと、嫌いか? 」
どきり。
真宙は困惑していた。
ここ最近、真宙は気になることがあった。
清盛のことを考えると、心臓がきゅっと締め付けられたり、触れたくなったり、抱きしめられたいとぼんやり考えることが多かったのだ。
その都度、「ありえねぇ! 」と否定はしていたのだが、事ある毎に清盛のことが頭から離れなくなっていた。
「き、嫌いじゃない……けど……」
「けど? 」
「……あの……考えさせて――」
真宙はうまくまとまらない頭をフル回転させた。
清盛のことは好きだ。
そう。真宙は気が付いた、が、真宙は混血種とはいえ宇宙人なのだ。
清盛は生粋の地球人で、宇宙人の存在なんて全く知らないだろう。
真宙は知られるのが怖いのだ。
正体を明かして、清盛がどんな態度を取るかも分からない。
もし嫌われてしまったら――そう思うと、真宙はますます不安になる。
幼い頃心に負ったあの傷がまたじくじくと痛んできた。
ぽたり。
気が付くと真宙は涙がこぼれる。
清盛はそれに気が付き、真宙の涙を拭いながら「俺はお前の答えが出るまで、待つから」と優しく言った。
(俺もお前のこと、好きだ――)
声にならない言葉が真宙の頭の中でループしていた。