第二十話
「違う! そうじゃない! 」
加賀谷の罵声が飛んだ。
「す、すみません」
真宙は息を切らしながら謝る。
加賀谷の振り付けは、予定より早く、次の日の朝には出来ていた。
桜井はそつなく振り付けを覚え、割り当てられた特別教室で他の生徒と練習をしている。
真宙はと言うと、まだきちんと覚えておらず、加賀谷の部屋での特訓を余儀なくされた。
「宇野が出来ないと、俺の考えたパフォーマンスがきれいに決まらないんだ。
だから、頑張って覚えろ!
体に叩き込め!! 」
加賀谷は真剣だ。
その真剣さに答えるべく、真宙も額に汗をして答える。
「よし! 10分休憩だ! 」
ふらふらになった真宙に、加賀谷はそう言うと、スポーツドリンクの入ったペットボトルを渡した。
「ありがとう――ございます」
床にぺたりと座って、真宙はごくりとスポーツドリンクを飲む。
カラカラだった体に、水分がいきわたる。
真宙は一気に飲むと、ふぅーっと息を吐いた。
その姿を見て、加賀谷は思わず呟く。
「宇野は、やっぱ結構女顔だな」
「なっ! 」
急にそんなことを言われて、真宙は思わず加賀谷を睨んだ。
「何変なこと言ってるんですか!
俺、マジ怒りますよ!! 」
「あ――すまん、すまん。
ついうっかり口から出てしまった」
加賀谷はばつが悪そうに頭を掻いた。
「でも、その顔なら俺の振り付けにばっちりなんだよ。
今回、副団はあの会長のせいでセーラー服になっちゃっただろ?
前から考えていた振り付けが使えなくなっちゃったから、実は結構困ってたんだ。
確かに女装はおもしろいんだけどさ、女装するとやっぱり真剣に応援をしても、その真剣さが伝わらないからな。
真剣どころかギャグになっちまう確率のほうが高そうだし。
だから、今回はどうしたもんかと思ってたんだけど、副団があの時のセーラー服のやつだと知って、本当にうれしかったんだぜ? 」
「え? 嬉しかった? 」
真宙は思ってもみない話に驚く。
「そう。嬉しかったんだ。
宇野なら、真剣に応援しても全然変じゃない!
むしろかっこよく出来そうだからな。
しかも、男臭くって感じじゃなく、シャープで洗練された感じにな」
加賀谷はそう言うと笑って見せた。
その顔は人懐っこくて、真宙は思わずどきりとする。
「――よし。10分経ったから、また始めるぞ」
「は、はい! 」
練習は門限ぎりぎりまで続いた。
その甲斐あって、真宙は何とか加賀谷が「よし! 」と頷くレベルにまで上達した。
「宇野。頑張ったな!
この感じを忘れないようにしろよ」
「はい! 加賀谷先輩どうもありがとうございました! 」
真宙はぺこりと頭を下げて、加賀谷の部屋を後にしたのだった。