第十七話
(俺、そんなに女みたいな顔してるかなぁ)
真宙は一人鏡の前で自分と睨めっこしていた。
(まぁ、確かに俺は混血児だし、本来なら性別のない種族なんだから多少は中性的な顔立ちかもしれないけど……)
自分でも少しは自覚していたのだが、清盛から指摘されてしまい、真宙は気になり始めた。
しかしどの角度から見ても、これと言って代わり映えしない自分の顔。
今まで付き合ってきた自分の顔なだけに、評価するのはなかなか難しい。
ふと、鏡を見ていたら清盛に後ろから羽交い絞めにされたことを思い出し、なぜかかっと顔が赤くなった。
(なっ、なんだよ俺! なんであんなやつのこと思い出してるんだよ! )
そう思ってしまうと、ますます清盛のことを考えてしまう。
あの低く心地のよい声。
凛とした瞳。
触れてしまった唇の、あの感触――
真宙はどきどきと高鳴る心臓を抑えることが出来ずに困惑する。
(俺、やっぱ変だ――)
目をぎゅっと瞑っても、瞼の裏には清盛の顔が見える。
(何だってんだよっ! )
真宙は蛇口をひねると、勢い良く出てくる水に自分の頭を突き出した。
まだ春先ということもあり、水はとても冷たかったが、自分の頭を冷やすのにはちょうどよく思えた。
(俺は、男だ。
今までもそうだし、これからだってそうだ)
蛇口をきゅっと閉めて鏡を見ながら、真宙は自分にそう言い聞かせた。
そうしないと、自分が自分でなくなるような気持ちになっていたのだ。
両手でぱちんと頬を叩いて気合を入れ、真宙は気持ちを落ち着ける。
ふぅ、と短くため息をついて、真宙は近くにあったタオルを無造作に掴み髪をごしごしと拭いた。
風呂場から出ると、ちょうど清盛が部屋に入ってきたところだった。
「お、お帰り」
変に意識しないようにと思う真宙だったが、どうもギクシャクとしたものになってしまった。
「ただいま」
そのことに全く関心がないのか、清盛は何事も無かったかのように返事をする。
そしておもむろに真宙の目の前に来ると、真宙の肩に掛かっているタオルを見た。
「これ、俺のだけど? 」
「えっ? 」
真宙がタオルを手にとって良く見ると、確かに自分のタオルではないことに気が付いた。
「ご、ごめん。
間違えた。
山田の使ってごめん」
真宙はまた変に意識してしまい、顔を赤らめる。
「別にいい」
清盛はぶっきらぼうにそう言うと、真宙の髪をそのタオルで拭いた。
「な、なに? 」
「髪、めちゃくちゃ濡れてる。
このままで居ると風邪引くぞ」
清盛は少し強めにごしごしと真宙の髪を拭く。
真宙は心臓の鼓動が早くなるのを感じて、清盛に気づかれてしまうんじゃないかとひやひやした。
しかしその裏で、このまま清盛と一緒にいたいという思いも強くなっていくのを感じていたのだった。