第十六話
大歓声の中、目黒の思惑通り賛成多数により可決。
そして学校内において、宇野真宙は『女装の麗人』なる不名誉な称号を得た。
(――俺、何が間違ってたんだろう? )
「男として」臨んだはずが、なぜか女装。
しかも清盛と「できてる」とか、目黒と「できてる」とか――変なうわさが出ている。
(なんだよもうーっ)
真宙はむすっとした顔で、頭をがりがりと掻いた。
(男同士で、なんでそういう話になるんだ?
まさか――宇宙人だって、ばれてる……?)
真宙は色々な思いを巡らせる。
(もし、ばれてたら――)
「ばれたら? お前何か悪いことしたのか」
不意に声を掛けられて、真宙の体がおもわずびくんと反応した。
「や、山田!!
――なんだよ、別に俺、何にも悪いことしてねーぞ。
大体、人の頭の中のぞくなよな」
「頭ん中のぞけるわけないだろ?
お前が自分でばれたらどうのって言ってたんだけど? 」
「へ?
俺が? 自分で喋ってた? 」
真宙はぽかんとして目を丸くしている。
「――つか、お前。
俺にあんまり近づくなよ。
――お前だってあのうわさ知ってるんだろ? 」
「あぁ、俺と真宙が付き合ってるってやつ?」
清盛はベッドに腰を下ろすと、雑誌をぺらぺらと捲りながらぶっきらぼうに言う。
「別に言いたい奴には言わせておけばいい。
そのうち勝手に飽きるだろ」
「飽きるだろって……。
大体お前の態度が――その、なんていうか、あの……」
真宙が言葉に詰まっていると、清盛は雑誌から目を離して真宙をまっすぐに見た。
何もかも見透かすような瞳に、真宙の心臓はきゅっと締め付けられてしまう。
「んっと……つまり……そ、その――」
「俺と本気で付き合いたいって? 」
清盛はわざと意地悪く笑う。
「そ、そんなわけねーだろ!! 」
真宙は真っ赤な顔をして反論するが、清盛は意にも介していないらしい。
「それより、ほぼお前に決まりそうだぞ」
清盛は目線を雑誌に戻しながら言う。
「? なにが? 」
「副団長だよ。
二日くらい前に投票したろ? 」
「え? ――あぁ、なんかあったな、そんなの」
団長は二年から、副団長は一年からそれぞれ投票で決まる。
「副団はお前でほぼ決まり。
団長は今のところ接戦みたいだけど、桜井先輩が優位らしいぜ」
「へぇー。桜井先輩か」
先輩なら、こともなげにこなしてくれるだろうと真宙は思った。
「お前と付き合ってる男がまた増えるかもな」
微かに笑みを浮かべた真宙を見て、清盛は意地悪に言う。
「なっっ! なんで、なんでそんな話になるんだよ?! 」
真宙は真っ赤になって反論した。
「だってそういうことだろ?
俺にせよ、目黒会長にせよ。
お前の近くに居る奴は、多分うわさの餌食になるんだぜ?
なってないのは、小林くらいだけど……あいつは彼女いるからな」
「だから、なんでそういう話になるんだ?
なんで俺の周りに居る奴なんだ? 」
真宙は清盛を少し上目遣いに睨んだ。
清盛は少し不思議そうな顔をして、真宙を見る。
「――まさか、とは思うが……。
お前自覚ないのか? 」
「自覚? 何のことだよ? 」
意味が分からない、と少し膨れる真宙の襟首を掴むと、清盛は風呂場に連れて行く。
「なにすんだよっ! この馬鹿山田! 」
山田は暴れる真宙を後ろから羽交い絞めにすると、右手で彼のあごを掴んだ。
鏡に映る真宙と清盛。
真宙は自分と清盛との体格差を改めて思い知らされる。
「これを見て、お前はなんとも思わないのか? 」
「なんだよ、俺がちびって言いたいのかよ」
少し検討違いの答えを聞いて、清盛は首を横に振る。
「違う。
お前、男の割には、女みたいな顔立ちしてるって言いたいんだ」
耳元で聞こえる清盛の低音にどきどきしながら、真宙は自分の顔をじっくりとみた。
「そう、かな。
まぁ、俺、母さん似ではあると思うけど、そんなに女っぽくねーだろ? 」
鏡の中に映る清盛を睨みながら、真宙は答えた。