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第十四話

「ま――真宙? 」

 清盛は目を疑った。

 それもそのはず、目の前に居るのはセーラー服を着たロングヘアーの美少女だ。


 ――どれくらいの間があっただろうか。

「そうだ! 輪ゴムだ! 」

 目黒はそう言うと「山田清盛君だね。ちょっと誰も来ないようにこの部屋見張ってて! 俺、職員室に行ってくるから! 」と、清盛の返事も聞かずに鉢巻をひらりとなびかせながら飛び出して行く。黒い学ランがとてもよく似合っていた。



「真宙……だよな? 」

 しんと静まり返った教室で、清盛の声がやけに響く。

「――なんだよ。文句でもあんのかよ」

 真宙は耳まで真っ赤にしながら上目遣いに清盛を睨む。

 すっと清盛は真宙に近寄り、長い髪をさらりと揺らした。


「……づら……」

「――せめてウイッグって言えよ」

 真宙は力なくうな垂れる。

 華奢なうなじが髪の間から見えて、清盛は思わずそっと指で触れた。

「な、なに?! 」

 びくんと体が動き、真宙は大きな瞳で清盛の目を見た。

「あ――ごみが付いてたから……」

 本当はごみなんか付いていなかったが、清盛はとっさに嘘をつく。

「え? あ、ごめん」

 真宙はばつが悪そうに目を伏せ、ウエストの辺りをいじり始める。


「――昨日、会長が言ってたろ」

「え? 」

「あれだよ。チアリーダがなんとかってやつ。それがおじゃんになったから、せめてセーラー服だけでも通したいんだと」

「あぁ。だからセーラー服……でもなんでお前なんだ? 」

「ほんとは会長が着て、みんなに披露するつもりだったらしいんだけど、用意したこの服がどうしても入らなかったって。

どうしたもんかと途方にくれていたとき、たまたま俺を見かけて――」

「それで、こうなったのか」

 清盛は真宙をまじまじと見た。

 透き通る肌。華奢な首筋。男のものとは思えないすべすべとした足。

 時折髪を掻き揚げるしぐさはとても妖艶で、思わず抱きしめてしまいたくなるほどだ。


「お前、さっきから何やってるんだ? 」

 清盛は勤めて平静を装う。真宙は先ほどからウエストのところをいじったままだ。

「これか? この服、会長のお姉さんのらしいんだけどな、ホックがどうしても掛かんねーんだ。

いくら身長が同じ位でも、やっぱ女のウエストって細いんだな」

「お前が不器用なんじゃねーの? 」

 清盛は意地悪く笑う。

「ちげーよ。先輩だって入れれなかったし。やっぱくびれの差だって! 」

「ふーん? 」

 清盛の薄い笑いに、真宙はかっとなった。

「なんだよ! お前に出来るんならやってみろよ! 」

 真宙はずいっと清盛の前に歩み寄ると、ほらといわんばかりにホックの部分を清盛に見せる。

(こいつ――俺を試してるのか? )

 服の間から、真宙の肌が見える。それは白く透明で、清盛を誘ってるかのようだ。


「……おまえ、何でシャツを着てないんだ? 」


 触れたい気持ちを理性で抑え、真宙の前で膝をついてスカートのホック部分を持つ。

「シャツ着ると、このセーラー服の首元からめちゃめちゃ見えちゃうんだよ」


 セーラー服の胸の辺りをつまんで説明する真宙だが、パタパタと制服を動かすたびに艶めかしい鎖骨が見え隠れする。

 こいつは悪魔か。と清盛は思う。

 人が必死で煩悩を理性で抑えているときに、なぜこういう行動に出るんだろうか、と。


「な? 無理だろ? 」

 知ってか知らずか、真宙は勝ち誇ったような、少し意地悪な笑みを浮かべる。

 清盛は真宙の顔をじっくりと見た。

「な、なんだよ」

 真宙は大きな瞳を清盛に向ける。

「――腹、ひっこめろよ。大体お前、幼児体型なんじゃねーの? 」

 清盛は抱きしめたくなる衝動を必死に抑えて悪態をついた。

「なんだと! 俺の腹は出てねーよ! 見ろ! この引き締まった腹を! 」

 真宙はこれでもかといわんばかりにセーラー服をたくし上げる。

 確かに真宙のお腹には無駄な脂肪は付いていない、しかし――その透き通った白い肌が余計清盛の気持ちを駆り立てる。

(こいつは……何にもわかっちゃいないっ! )


「誰かいるのか? 」

 ふいに家庭科室のドアが開く。

「い、石森先生?! 」

 真宙は驚きのあまり素っ頓狂な声を上げる。

 石森は二人の姿をみて、驚きのあまり手に持っていた本を落とした。


 それもそのはず。

 真宙は、あともう少しで胸が見えそうなところまでセーラー服をたくし上げているし、清盛は真宙のホックを入れようと膝を付いている状態なのだ。


「や、山田! 交際するのは勝手だがな、他校の生徒をこんなところに連れ込んで、何しようとしてるんだ!

桜沢女学校のコだな? 名前はなんだ! 朝っぱらだぞ! 」

 石森は顔を真っ赤にして怒っている。ぼさぼさの頭から湯気が出そうな勢いだ。

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