第十三話
翌朝、清盛がシャワーを浴びている隙に、真宙は一人学校に向かった。
清盛はいいやつだと思ってはいるが、未だに病人扱いなのには納得がいかない。
(男の中の男になる筈なのに、どうも調子が狂っちゃうんだよな…… )
ふわりと花の匂いがして、真宙は春を感じる。
校舎の手前にある花壇は、春の花が咲き乱れていて、真宙は思わず目を細めた。
今日の生徒会の『一言コメント』はどんなこと言えばいいのかな? そう真宙が思ったときだった。
「宇野真宙君! 」
後ろからフルネームを呼ばれ、真宙は驚き振り向いた。
「か、会長? 」
振り向くとそこには、あのいたずらな笑みを浮かべた目黒が立っていた。
「ちょっとこっちに来てくれないか? 」
真宙の返事を聞かずに、目黒は腕を掴んで校舎に向かって歩いていく。
「ちょ、ちょっと会長!
腕痛いですって! 放してくださいよ! 」
「いいから、いいから。
あと、会長じゃなくて竜一って呼んで。
俺、名前で呼ばれるの好きだからさ」
「か、会長? 」
家庭科室に入ると、目黒は戸に耳を当てて様子を伺っている。
「よし、誰にも気づかれてないな」
そう呟くと、目黒は真宙を上から下まで眺める。
「真宙君、僕は君を男と見込んで頼みたいことがあるんだ。
男なら、黙って頷いてくれないか? 」
まっすぐな瞳で真宙を見つめる。
それは一遍の曇りもない、まっすぐな気持ちそのものだった。
「お、男……? 」
「そう! 男として、だ」
真宙の心はぐらりと揺れた。
まるで『男』としての心意気が問われているような気がする。
「わ、わかりました。
俺に出来ることでしたら」
目黒は真宙の手をがっちりと握ると、ぶんぶんと上下に振りながら言う。
「真宙ちゃんじゃないと出来ないんだよ!
ホントありがとう!
――それと…… 」
「? それと? 」
「会長、じゃなくて竜一って呼んで」
目黒が急に膝をつき上目遣いで言うので、おもわず真宙は笑ってしまった。
「か……じゃなくて、竜一先輩……本気ですか? 」
真宙は目黒の頼みを聞いて驚きを隠せなかった。
「本気だから。真宙ちゃんじゃないと駄目なんだよ。
それに――さっき良いって、言ってくれたでしょ? 」
目黒はそう言いながら真宙のネクタイをはずそうとする。
「ちょっと、竜一先輩! 自分でしますから! 手伝わなくていいですって! 」
真宙は目黒の手を静止した。
「そう? 」
目黒はちょっと残念そうに真宙を見る。
真宙は覚悟を決めたようで、上着を脱ぎ、するするとネクタイを取ると、シャツのボタンをはずした。
シャツを脱ぐと真宙の華奢な体が目に入る。
うん、これなら……と、目黒は思った。
時計に目をやると、ちょうど八時になるところだ。
「時間がないな…… 」
そう呟くと目黒も自分の上着を脱ぎネクタイをはずす。
(真宙、どこだ? )
朝、シャワーから出るとすでに真宙のかばんは無く、学校へ行ったことがわかった。
下駄箱に真宙の靴があるから、校舎の中にいるのは間違いない。
しかし、教室にも真宙の姿はなく、彼のかばんも無い。
「ちっ」
清盛は舌打ちをすると、使っていない特別教室を片っ端から調べていく。
「……せ、んぱい…… 」
家庭科室の前で清盛は立ち止まる。
今、真宙の声が聞こえたような気がしたからだ。
「り、竜一先輩、ちょっとこれ、駄目です。きついです」
「大丈夫! 俺に任せろ! 」
「あっ! そんな無理やり! 苦しいですって! 」
「駄目か? ちょっと入らないか? あと少しだよな……」
「っ! 」
「あ、ごめん真宙ちゃん。痛かった? 」
「だ、大丈夫です……」
(な、に、やってんだ!! )
清盛は怒りに任せて扉を思い切り、力いっぱい開けた。
「なっ! 山田! 」
突然の訪問者に、真宙はひどく驚き、恥ずかしさで耳まで真っ赤になった。