第十二話
「皆さん揃いましたね。それではそろそろ始めようと思います。
去年と同じメンバーの皆さんは、今年新たにメンバーになった方々へのフォロー、お願いします。
それでは手元にある資料、2ページ目をご覧ください…… 」
放課後、生徒会室で本年度の生徒会が執り行われた。
議題は『明日、全校生徒への新生徒会のお披露目、及び球技大会について』である。
新生徒会は12名。
生徒会長は三年の目黒竜一。
彼は先ほどからちらちらと時計を見ている。
「会長。ここまでで何か意見ありますか? 」
まるでその行為を咎めるかのように、きらりと目を光らせているのは副会長の桜井司だ。
「え? いや~司ちゃん。 僕は何にも意見ないから、先行って頂戴」
そう言うと、また目黒は時計をちらりと見た。
桜井はふぅ、とため息をついて議題を進めていく。
「では、明日の新生徒会では皆さん一言づつ、コメントを述べてくださいね。
――それでは、次に球技大会についてですが……」
「はいはい!提案! 」
桜井が言い終わらないうちに、目黒はすっと手を伸ばし、おもむろに立ち上がった。
艶のある黒い髪は少しくせ毛で、目の色も黒、少し童顔のその顔はまるでいたずら好きの少年のようだ。
「いつも応援団長と副団長が学ラン着て、はちまきするのって芸がないと思ってたんだよね。
で、今回からチアガールにするのってどう?」
「却下です」
間髪居れず桜井は提案を拒む。
「なんで? 面白いじゃん! だって男子校でチアガールだよ? むさーい青少年が、ミニスカでぽんぽん持って踊るんだよ? 」
目黒はふくれっ面で桜井に講義する。
「面白いとか、面白くないとかではなく、予算的にも時間的にも無理があります。
チアガールの服はどうするんですか?人数はどうするんですか?
踊りの振り付けは? 会長が指南するんですか? 」
矢継ぎ早に桜井に質問をされ、目黒はぐうの音もでない。
結局目黒は応援団長は学ラン、副団長はセーラー服でということで妥協した。
しかしそれも明日の『新生徒会お披露目』の際多数決をとった上でだ。
もし、賛成多数をもらえなかった場合、いつも通りの応援になってしまう。
目黒はがっくりと肩を落としたが、「あっ! 」と声を上げると、「ちょっと俺用事があるから、先帰るわ。司ちゃん後宜しく。ではみなさん明日がんばりましょう」と言うやいなや、生徒会室を飛び出していった。
ぽかんとする新生徒会役員、去年と同じ生徒会のメンバーは苦笑いをしている。
「……さて、気を取り直して球技大会についてですが、資料の11ページにある通り、他の学年との交流を深めることが目的なので、縦割りのチームとなります。1-A、2-A、3-Aが同じチームになる、という具合です。それと注意事項としては、部活と同じ球技に参加するのは不可。一年生の皆さんはまだ部活に入っていない方が大半だと思いますので、中学での部活が参考になります。
種目は前年度と同様に、バスケットボール、野球、、バレーボールです。何か質問等はありますか? 」
横槍を入れる目黒が居なくなったおかげで、話し合いはスムーズに進んだ。
「では今回はこれで解散にしたいと思います。
皆さんお疲れ様でした。それでは明日の一言コメントのほう、よろしくお願いしますね」
桜井はそういうと、お辞儀をした。
他の生徒会役員たちもそれに習ってお辞儀をする。
「先輩お疲れ様です」
真宙は桜井に声を掛けた。
「お疲れ。 真宙君、風邪はもう大丈夫? 」
桜井は真宙の顔を覗き込む。
真宙は少しはにかんだ笑顔を見せた。
「すいません。 先輩にまで心配してもらって……俺、もう元気ですから」
真宙の屈託のない笑顔に、桜井は何か違和感を覚えた。
(微かに、何かが――)
「? 先輩? 」
真宙は少し首をかしげて桜井を見つめる。
「あ、 あぁ。 なんでもないよ。 真宙たちは先に寮に帰って。 俺は少し用事があるから」
「帰るぞ、真宙」
ぶっきらぼうに清盛は真宙に声を掛ける。
真宙が振り向くと、すでに清盛は真宙のかばんを持って、廊下に出るところだった。
「ちょっと!
だから俺、もう元気なんだってば!
あ、先輩すみません。では失礼します」
ぺこりと頭を下げると、真宙は廊下を出て行った。
「気のせい……かな」
桜井は真宙の後姿を見ながら、ポツリと呟いた。