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第十一話


 真宙は気がつかない。

 なぜ、気がつかないのだろうか?

 清盛はそう思いながら彼を見る。

 今は英語の授業中。

 真宙は先ほどから教科書の英文を流暢に読んでいて――彼は英語だけは得意なのだ――ボーイソプラノのような真宙の声は静かな教室に凛と響き渡る。


 普通ならクラスメイトが教科書を読んでいようと、教師からの質問に答えようと視線をそちらに向けるものなど居ない。

 だが――真宙が指名されると、みな一斉に真宙を見る。

 いや、視姦と言ったほうが良いかも知れない。そのザラリとした、舐めるような視線に清盛は嫌悪を覚えた。

 時折見せる真宙の色香。

 あれは、毒になる。そう、猛毒だ。清盛は確信する。

 ふとしたときに見せるあの表情は、まさに女のそれであり、男を誘惑しているとしか思えない。

 只でさえ、ここは男子校。しかも全寮制と言う閉鎖空間なのだ。

 彼の無意識な振る舞いに清盛は小さくため息をつく。




「俺、剣道部に入るつもりなんだ 」

 この前の歓迎会のとき、部活の話になり真宙は清盛と小林にそう話した。

 当初柔道部に入ろうかと思ったらしいが、友達の強引な誘いにより剣道部に入部したらしい。

 

 もし柔道部に入っていたら――清盛は思いを巡らせる。

 あんな華奢な体で、組み手をするのか?もし寝技になったら……そう思うと余計に苛々としてしまう。

 真宙はもっと自分がほかの男にどう映るのかを自覚すべきだ。

 清盛は見も知らぬ『真宙の友人』が一人苦労していたのだな、と思った。

 剣道は組み手もないし、面をつけるので顔も良く見えない。

 その選択は間違いではなかったようで、あれだけの容姿にもかかわらず、手は出されていないようだ。

(でも、俺が……)

 清盛は唇をそっと撫でた。

 あの甘く切ないキス。

 ぼろぼろと涙をこぼす真宙を見て、思わず感情の赴くままにキスをしてしまった。

 好きだと告白して……。

 幸か不幸か、真宙はその後すぐ気を失ってしまったので、覚えているのかもわからない。

 告白の答えも聞けないまま、毎日を過ごしている清盛にとって、これは一種の拷問に等しかった。

 ならば、と彼は思う。

 ならば俺が真宙を守ってやろう、と。

 悪い蟲がつかないように、守ってやろう。

 クラスも同じ、部屋も同じ、そして同じ生徒会に入ったのだ。

 これ以上の適任はいないだろう。

 



「おい、飯に行くぞ」

 昼のチャイムがなり、清盛は真宙に声を掛ける。

「え? 」

 真宙は大きな瞳をますます大きくしながら、清盛のほうを振り向いた。

 清盛は半ば強引に真宙の腕を掴み、学食へ歩いていく。

「は、離せよ!

一人で行けるって! 」

 真宙は顔を赤くしながら、必死に抵抗する。

 清盛はふっとため息をつくと、真宙をまっすぐ見つめる。

 その端正な顔を見て、真宙はますます顔を赤くした。

「また、倒れたら俺が困る」

「え? 」

「お前は俺の妹みたいで心配なんだ」

「い、妹? 」

 あの写真の美少女が、真宙の脳裏に浮かんだ。

 妹だと聞いた今でも、なぜか少しだけ胸が痛む。


「あぁ。あいつは病弱で、強がるけどすぐ熱を出すんだ。

今のお前みたいにな。

だから――心配掛けんな」

 清盛の少し寂しそうな顔を見て、真宙は何も言えなかった。


 

 

 

 


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