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第十話


(やっと学校に行ける)

 あの後、熱をぶり返してしまった真宙は、三日ほど休んでしまった。

 今日が初登校。真宙は真新しい制服に身を包んだ。

 

 ダークグレイのブレザーで、学年によってネクタイの色が異なる。

 一年生はえんじ色、二年生は紺色、三年は深緑だ。


「あれ……」

 きゅっとネクタイを締める真宙だったが、どうしても上手く締めることが出来ず悪戦苦闘していた。 

「おっかしいなぁ」

 どうしてもネクタイがうまく出来ない。

 中学時代は学ランだったため、ネクタイを締めたことが無かったことに今更ながら気がついた。

(父さんが締めてるの見てたから、わかると思ったんだけどな)


「貸せ」

 不意に後ろから声が聞こえ、大きな手が真宙のネクタイを締めなおす。

 後ろから抱きしめるような体勢に、思わず真宙は体を硬くした。


 あの突然の告白の後、唇が離れると同時に真宙は気を失ってしまった。

 熱がぶり返したからなのだが、真宙はあの告白もキスも覚えている。

 しかし――夢だったのか、現実だったのか、ひどく曖昧なものだ。

 清盛もあの後特に様子も変わらないし、まさか「俺にキスした? 」なんて聞けるはずもない。

 (やっぱり、夢だったんだよな)

 真宙はほっとしたような、残念なような、複雑な気持ちになっていた。


「――ほら。できたぞ」

 耳をくすぐるように清盛の吐息がかかる。

 真宙はおもわず顔を赤らめた。

「お、おう。サンキュー」

 伏せ目がちに真宙は礼をいい、清盛はその様子にふっと微笑む。

「ほら、もう行かないと遅刻するぞ」

 清盛は真宙のかばんを持つと、さっさと廊下にでてしまった。

「ちょ、ちょっと!

もう病人じゃねーって!

かばんくらい自分で持てるよ!! 」

 真宙は慌てて清盛を追いかけた。




「――で、なんでこうなってるんですか? 山田君」

 真宙は清盛を睨みつけた。

「投票、だろ」

 清盛は涼しい顔で真宙を見る。

「投票って……。お前はわかるよ? だって主席じゃん。

でも俺、頭わるいし、学校だって今日初登校で……、なのになんで俺が生徒会に入るんだ? 」

「俺に聞かれてもな。――というか、お前頭悪かったのか」

 墓穴を掘った真宙はさらに清盛を睨みつける。


 ことの発端はこうだ、朝登校すると担任の石森先生が二人を呼んだ。


「今日正式発表されるんだけど、お前たち二人が生徒会に選ばれたぞ。

山田、宇野、よかったな! これから頑張れよ! 」

 石森は目を細め二人を見ると、軽く手を振りながらその場を後にした。


 この学校の生徒会に入る道は『立候補』と『投票』『その年の主席』で成り立っている。

 この場合、主席はほぼ確定。立候補も同じ。そして投票だが、これは文字通り生徒全体の投票で成り立っており、人気のある生徒が投票されるシステムだ。生徒会の人数が足りない場合に執り行われる。


「――お前、目立つから」

 透き通るような肌、柔らかい髪、大きな瞳に長いまつげ。女の子だったら間違いなく『美少女』の部類に入る。

 そんな真宙が目立つのは当然の結果といえよう。


「俺が? なんで?

――あ!

あの、歓迎会の時、ひっくり返ったからか!

それとも入学式から欠席だったから?!

――確かに……目立つって言えば、目立つな…… 」

 真宙は一人で納得し、がっくりと肩を落とした。


「ま、がんばろうぜ」 

清盛はそう言うと、真宙の頭をくしゃくしゃと撫で薄く笑った。




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