8話 開会の儀
「さあて、ついに始まりした戦遊戯。総勢900人を超える代理人。頂点に立つのは誰なのか!!」
開会の儀。
芸能の神、天宇受売命の声が代理人達が一堂に会する広場に響き渡る。
「今回、戦遊戯の進行役はこの天宇受売命、通称うずめちゃんが行います。皆、よろしくネ。」
とアイドルポーズをバッチリ決める天宇受売命――うずめちゃん。
齢253歳であるが20歳前半と言われても全く違和感がない姿をしている。
「いよいよ始まったわ。」と意気込む美奈子。
一方の空也は視線を世話しなく動かしているが、緊張している訳ではない。
ただ人を探しているだけである。
(やっぱり、こんな大人数の中じゃあ探し当てれないな。)
「まず始めに来賓のご紹介を行います。」
うずめちゃんの言葉を受け、高台から姿を現わしたのは純白の修道服を着た一人の少女。
栗色のショートボブヘアに淡い桃色の瞳に凹凸がはっきりとした体型。
遠くからでも可愛らしいのがよくよくわかる。
「神獣の巫女姫様です。」
うずめちゃんの紹介に騒めく観客達。
たわわに育った胸の前で手を組み、祝辞を送る巫女姫に絶句する空也。
それは美奈子も同じ。声を絞り出すように驚愕する。
「う、そ・・・。あれって、もみじ?」
そう、巫女姫と紹介された少女は犬飼紅葉に瓜二つだったのだ。
「ちょっと空也。」
祝辞を終え、背を向けた巫女姫に我に返った空也が紅葉の名を叫びながら駆ける。
しかし、騒ぎに気付いた神官達が空也を取り押さえ、彼女の元へと辿り着く事はできなかった。
「お疲れ様でした巫女姫様。」
祝辞を終え、戻ってきた巫女姫に第一声をかけてきたのは彼女に使えている神官、カムイ。
見た目は30代前半。鋭利な眉毛と灰色の髪、鋭い眼光が特徴的で風格と言動から手厳しい印象を抱かせる。
「ありがとうカムイ。」
役目を終え、ほっと一息をつく巫女姫にカムイは心配そうに顔を覗き込む。
「どうされましたか、少し顔色が優れませんが?」
「大丈夫ですよ。多分初めての外の世界に少し酔っただけだと思います。」と答えた巫女姫。
だが、実際には少し違う。
心に少しモヤがかかってもどかしいのだ。
祝辞を送り終えた時に何かを叫ぶ少年を見た時、心にチクリと感じたあの痛み。
それは何を意味するのか?
彼女には全く分からなかった。
(あの痛みは一体?)
「そうですか。では牛車の中でゆっくりお休みください。」
内心、胸を撫で下ろすカムイは巫女姫に帰路を促す。
「わかりました。いきましょう、えるくん。」
自分の肩に止まった雷鳥に一声かけ、この場から立ち去る巫女姫。
後に続くカムイ。
「・・・・・・。」
彼の足が止まり、視線が一瞬だけ広場へ向けたのは一体何を意味するのか?
それはカムイ本人ぞ知るのみだった。