5話 鍛錬
「土岐遠、行ったぞ!」
「はい!」
唯一の出入り口の前に立ちはだかり、逃げようとする野盗達の行手を阻む。
今空也は夢幻と共に神隠しで人攫いを組織的に行っている野盗達のアジトへ突入していた。
「よし、そのままここを任せるぞ。」
返事を聞く前に奥へと消える夢幻。
空也の目の前には十数人の荒くれ者が。
「どけえー!!」
刀を振り翳す相手を時空剣で一人討ち取る。
「くそっ、このガキ!」
「野郎ども。がしゃどくろを使え。」
この指示に野盗達は懐から頭蓋骨を取り出し天にかざす。
すると次の瞬間、野盗達の全身には骨の鎧が装備された。
空也は襲い掛かる野盗に再度時空剣を振るう。が、骨の強度に刃が通らず跳ね返される。
「見たか。がしゃどくろの骨はいかなる攻撃を跳ね返すのだ。」
「くそっ。ならば!」
後方へ少し下げられてしまった空也は時空剣の刀身を輝かせる。
「(骨の鎧をすり抜けて直接斬りつける!)くらえ、時空葬覇斬!」
「ぎゃああああああああ!」
「どうした!?」
「よし、上手くいった!」
骨の鎧の中から血を吹き出して倒れる仲間の姿に野盗達の足が止まる。
「さぁ来い!全員、倒してやる。」
「ひ、怯むな!かかれ!!」
一斉に多いかかる野盗の群れ。
空也は光り輝く時空剣を手に、立ち向かうのであった。
「ギリギリ次第点だな。」
力を使い果たし、よつんばいで息絶え絶えの空也に対して夢幻からの厳しい評価。
「野盗達を全員倒した事は評価するが、切り札である時空葬覇斬を簡単に使った所が大減点だな。」
「そんな事言われても仕方がないですよ。だってあの鎧が。」
「この鎧がなんだって。」
夢幻が十束剣で野盗から回収したがしゃどくろの鎧に一振り。
まるでナイフでバターを切るかのようにいとも簡単に真っ二つ。
それを目の前で見せつけられて何も言えなくなる。
「ダメですよ狐様。貴方様と土岐君の実力では雲泥の差がありすぎるのですから。」
とフォローしたのは両眼を閉じている僧侶の姿をした人物――蓮である。
「あの者達は衛兵達も手を焼いていたお尋ね者集団ですよ。苦戦して当たり前です。ですが狐様の言う通り土岐君は時空葬覇斬に心酔している傾向がありますね。」
二人からのありがたい厳しいダメ出しにぐうの音も出ない。
今回の事で自身の実力不足は痛感したのだ。
(俺は運が良かっただけだ。もし一人であの集団と戦っていたら確実に死んでいた。)
今まで自分が相手していたのは戦闘に対して素人の者ばかり。
腕に覚えがある者とでは完全に格下であると知らしめられた。
(この1ヶ月、色んな異世界で渡り歩いて強くなったと思っていたけど。)
「それはそうさ。何せここは神々が暮らす世界なのだから。他の世界とは一味違うさ。」
夢幻の一言に納得。
「で蓮よ。取りこぼしはないよな?」
「ええ、周囲を見渡しましたが大丈夫ですよ。」
そう答えた時、彼方から飛翔する複数の目玉が蓮の身体に吸い込まれる。
蓮は百目と呼ばれる妖怪で全身に百個の目玉を所持しているのだ。
「組織的に人攫いしている所も大方潰したし、土岐遠の実力も大方把握できた。さて本格的に鍛錬を行うぞ。」
「はい。」
呼吸を整え立ち上がる空也。
「とは言え、やる事といえば単純明快。基礎値の向上だな。」
「基礎値の向上、ですか?」
「ああ、実戦経験はそれなりにあるが、基礎能力は極めて低い。その改善を行う。」
夢幻の指摘に少し異議を感じてしまう。
「基礎はできていると思うのですが?」
「いいや、全然だ。」
「そうですね。」
空也の反論をバッサリ切り捨てる二人。
「土岐遠よ、お前はこの眼の制御に時間を取られ、身体の動かし方や使い方を理解する暇がなかったはず。幼少期に習っていた剣道と最低限の事だけを習い、後は誤魔化していたに過ぎない。」
「だからこそ、少しでも不利になると切り札を容易に使ってしまうのですよ。」
「時空葬覇斬は確かに強い切り札だ。だが、こう易々と使っていてはいずれ対策されてしまう。いいか土岐遠、完全無欠の技など存在しない。」
夢幻と蓮の言葉の重みに沈黙。
指摘も的確で今まで見向きもしなかった欠点を言い当てられて反論の余地すらない。
「という訳で基礎値の向上を行う。とはいえ、時間はあまりない。」
「後五日ほどで参加応募の締め切り。一週間もすれば戦遊戯が始まりますからね。」
先日命名された戦遊戯。
街では大きな催し物として大いに賑わい始めている。
「という事で突貫工事だ。剣を構えろ。」
言われた通り時空剣を構える。
実践形式で教えてくれるのか、と思っていたが違った。
「土岐遠、今からお前は戦いの中で何度も死んでもらう。」
「え――――。」
言葉の意味が一瞬理解できなかった。
「走馬灯、て分かるよな。死の直前、世界がゆっくりになったり普段出せない力が発揮できたり。」
「言いたい事は分かります。俺はそれで魔眼が開眼しましたから。」
「それは潜在能力が引き出されているのさ、一瞬だけ。それを自在に引き出せるようになれば・・・・・・。」
言わんとしている事はわかる。だけど――――。
「大丈夫。寸止めするから瞬きするなよ。さぁ、死の刹那の中で全てを学べ。」
問答無用で襲いかかる夢幻。
手加減はしているようだが、殺気は凄まじい。
空也は一歩も動けず、夢幻の一撃(もちろん寸止め)をモロに受ける。
「っ――――。」
吐き気を催す空也。
胃酸が逆流し喉元まで昇るが吐瀉の寸前で何とか思いとどまった。
実際には斬られてはいない。
しかし空也の身体には胴体を斬られた感触と恐怖を体感した。
(なんだこれ。もしかして空想で俺を斬った?)
聞いた事がある。
剣の境地を極めた者は残像を見せ、相手に斬られたと思わせることが出来ると。
「今、お前は防ぐ行動を見せなかったから斬られた。土岐遠よ、お前はただただ茫然と斬られ続けるだけか?」
夢幻の煽り――いや発奮を促しての発言。
空也は恐れる気持ちを心の奥底へ無理矢理しまい、気合いを入れて恐敵へと立ち向かった。