28話 九尾の狐
「キキ!キキ!」
玃猿は顔を紅潮させていた。
それは今まで苦汁を舐めていた相手――九尾の狐にマウントを取っているからに他ならない。
一撃、一撃。
地を叩き潰す度に気が大きくなるのがわかる。
自分は強い。もうこんな奴に怯えないでいいんだ。
「倒せ!倒せ!九尾の狐もどきなど、恐れずに足らず!!」
カムイの声援が後押しとなる。
消えろ!消えろ!
完膚なきまでの敗北を刻み込む為両手を組み、渾身の一撃を振り下ろす。
――――!!
空気を切り裂く一閃。
何が起こったのか分からなかった玃猿は数秒後に気付く。
自分の両腕が無くなっている事に・・・。
「ギャアアアアアアア!!!!!!!」
「五月蠅いなアホ猿。腕ぐらいすぐに生えてくるだろうが。」
「あ、ああ・・・・あああ・・・・・・・。」
声にならない悲鳴を零すカムイ。
今自分が眼にする状況が信じられなかった。
玃猿の両腕が突然切断され、目の前に転がり、そして蹴り飛ばされる姿。
夢幻は全くの無傷。
あれだけの猛攻を身に受けていたにもかかわらず、だ。
だが、何よりも驚くのは尻尾。
夢幻が生やしている尾が一つ増えていた。
「ば、馬鹿な・・・。」
「何を驚いている。俺は九尾だぞ。尾が一つ増えたぐらいでそこまで驚くことがあるか?」
「そ、そんな・・・。だってお前は一度も尾を見せた事が――――。」
「お前ら如き、尾の力がなくても十分だ。」
ゾクッ!
背筋が凍る。
身にかつてない恐怖が。
(ま、まさか私は判断を誤ったというのか・・・。)
「―――だが、そこまで見たいというのなら見せてやろう。」
尾が三つ、四つ。
一つ一つ増える事に夢幻の全身は黄金に輝き始め、そして九本揃った時、そこには巨大な九尾の狐の姿が。
背丈が長い木々を軽く超す九尾の狐。
全てを踏み潰す迫力に腰を抜かすカムイ。
「こ、これが本来の九尾の狐・・・・。」
目の当たりにした力の差に愕然、恐れをなす。
しかしこれでは終わらなかった。
玃猿の呟きが更なる絶望へと誘う。
「何ッ!昔よりも力を増しているだと・・・・・!」
徐に前足を高々に振りかざす九尾の狐。
「や、やめろ。頼む。やめてくれ!」
カムイの懇願は九尾の狐の耳は届かず。
そして――――――。
この日、天界全域に震度5強の大地震が発生。
各方面に多大な被害をもたらした事で第参種目の宝探しは途中にもかかわらず強制終了、中止となった。
この大地震の震源地は神獣の森最奥部である事は言うまでもない。




