24話 宝探し~観戦~
「さぁ、恋愛の神、出雲神の代理人――物部加恋の魅惑の舞が炸裂。彼女の幻想且つ情熱的な踊りに神獣達はメロメロ。その隙をついて宝玉を獲得!さぁ、後は終了まで守り切れるか!」
大広場では上空に掲げられた巨大スクリーンに映された映像をうずめちゃんが実況。
そして、その周囲に浮かぶ一回り小さいスクリーンにはメインスクリーンとは別視点が中継されており、観客達はその映像に一喜一憂。
「おお、こっちでは一つの宝玉を巡って代理人同士が戦っておるぞ。」
「本当だ、なあ、どっちが勝つか今日の酒代で賭けねえか?」
「いいぜ。」
「ぎゃはは、何だあの代理人、神獣に踏み潰されたぞ。」
「嫌だ~~~。惨い~~~。」
神の命により命懸けで宝探しを行う代理人達を当の神々は馬鹿みたいに大きく口を開けて嘲笑い、そして酒を浴びる。
そんな中、そわそわと落ち着かない心境で巨大スクリーンを見守る陽弥瑚の姿が。
「何故じゃ。何故美奈子と空の字の姿が映らんのじゃ!!」
「落ち着いて下さい陽弥瑚様。」
「この状況で落ち着けるわけがなかろうが!蓮」
必死に宥めようとするが、逆効果。
「コラ、さっさと美奈子と空の字を映すのじゃ!何をしておる!そんな下らん映像など流すではない!」
両手を振りかざして騒ぐお子様に呆れる保護者。
(とは言え、何故美奈子殿と土岐君が映らないのでしょうか?)
ふと思う疑問。
開始して早6時間。
視点は著しく変わっているが今まで一度も美奈子と空也の姿は映し出されていない。
「上手く隠れているのでしょうか?それならいいのですが・・・・・・。」
唐突に「些細な事でもいい。何か不審を感じたなら、遠慮せずに俺に連絡しろ。」夢幻の言葉を思い出す。
「(私の気にし過ぎならいいのですが・・・・・・。)おや?」
その時、蓮の脳にある映像が流れ込む。
「陽弥瑚様、陽弥瑚様。」
「なんじゃ蓮よ。今は忙しいのじゃ。話しかけるのは後に―――。」
拒む陽弥瑚の耳元で今視た内容を伝える。
「なんじゃと!?それは真か!」
「はい。しかと眼にしました。」
「すぐに案内するのじゃ!」
「何よ、これ・・・・・・。」
愕然とした声が零れる。
「何で神獣の森でこんな事が行われているの!あり得ない!」
ファナの憤りは周囲の歓声にかき消される。
彼女は商店街で身を潜めていて、偶々空に映し出された戦遊戯の映像を眼にしたのだ。
「誰がこんな事を許したの?も、もしかしてカムイが!?」
神獣が声を荒げて暴れる姿。
激しい戦闘音に驚き、あちこちへと逃げ出す小動物達。
「酷い、酷過ぎる・・・。」
次々と移される映像に胸が締め付けられる。
「どうしてよ、どうしてこんな事に・・・。私のせいなの・・・。私が逃げたから・・・。」
後悔、という罪が重く圧し掛かる。
「駄目、もう見てられない。」
早足でその場から離れる。
映像が見えない薄暗い裏路地まで逃げ込んだファナ。
手が無意識に痛む心臓へと向かう。
「嫌だ、こんな事になるなんて・・・。どうしてよ。」
―――それは貴女、という存在がいたのです―――
「!!!」
聞き覚えのある声。
振り返るとそこには一匹の狛犬の姿が。
再び走り出すファナ。
戦遊戯に夢中で騒ぐ立ち見客の隙間の縫うように逃げるファナ。
――お待ちなさい!逃げても無駄です。―――
一匹だった狛犬は徐々に数を増やしていく。
「邪魔よ!」
街から飛び出し、目の前に立ちはだかる狛犬に八卦。
―――小生意気な。―――
「どきなさい!」
次々と襲い掛かる狛犬達を得意の少林寺拳法で倒していく。
――やはり生意気な娘だ、仕方がない。奴を呼ぶとしよう―――
指揮する狛犬が首から下げていた笛を一吹き。
すると、地面に空間が開き、そこから大きくて立派な角を持つ獅子が姿を現す。
「ウソ・・・、望天吼までいるの・・・。」
金色の大きな瞳がギラギラ滾らせ、鬣を逆立たせる望天吼。
―――さぁ、食事の時間ですよ、あの娘を食べ尽くしなさい―――
猛スピードで襲い掛かる望天吼。
獰猛な牙を紙一重で躱し、側面から渾身の八卦。
しかし分厚い毛皮がファナの攻撃を防ぐ。
「くっ!」
鋭利な爪による切り裂きをバックステップで躱す。
(駄目だ、攻撃が効かない。逃げる事も出来ない。)
背を向ければ、一瞬で捕まり殺される。
とはいえ勝てる勝算もない。
完全に詰んでいる事を悟る。
―――観念して望天吼の餌となりなさい。それが定め。神獣の森の御心なのです―――
「ふざけないで!私はその為に故郷を捨てたじゃないの!」
悔しさを拳に込めて、望天吼の顎を狙い昇天打ち。
(効いた!)
よろめく望天吼。
その好機に八卦をがら空きの腹部へ。
―――させません!―――
「くっ!」
指揮する狛犬が吐いた火の玉を咄嗟にガード。
だが、その選択は間違いだった。
その場に佇んだことで、立ち直った望天吼の爪がファナの脇腹を捕らえる。
「ぐはっ!」
口から血を吐き出すファナ。
その場に膝をつき、腕で裂かれた脇腹を抑えて止血を試みる。
「グルルル。生き血、ウマい。」
爪に付着した血を舐める望天吼の表情に戦慄が走る。
―――これで終わりですね。さぁ、大人しく望天吼に喰われなさい。新たなる巫女姫様の為に―――
「ふざけないで・・・。私が、私が・・・・本当の―――。」
望天吼の両腕がファナを乱暴に掴んだことで言葉が途切れる。
痛みに顔を顰めたファナの瞳には大きく口を開ける望天吼の顔が。
死を覚悟。
走馬灯が過ぎり、故郷の両親に謝罪の言葉が自然と零れる。
「ごめん、なさい。私――――。」
「雷鳴、轟走れ!!」
その時、一筋の閃光が望天吼の身体を貫く。
―――な、何だ?!―――
閃光が走った方を振り返るとそこには眼に怒りの炎を宿した陽弥瑚の姿が。
「何をしておるか!!!!!」
―――な!何であの者がここにいるのだ!―――
指揮官狛犬が驚くのも無理もない。
陽弥瑚がこの場に駆け付けたのは街中を散策していた蓮の目玉の一つが逃げるファナと追いかける狛犬達を偶然目撃にしたから。
両手を天へとかざし、力を蓄える仕草に慌てふためく指揮官狛犬。
―――ま、マズい。望天吼よ、避けろ!―――
しかし、先程の一撃を不用意に受けた望天吼はふらついている。
「落ちろ、稲妻!敵を穿て!」
天からの稲妻は望天吼めがけて落雷。
「ギャアオァオォ!!」
真っ黒に焼き焦げ、絶命した望天吼。
――く、くそ!―――
状況が不利だと察した指揮官狛犬は尻尾を撒いて逃げる。
だが、
「無駄です。私の眼から逃れませんよ。」
――なっ!ギャアアアアアアア――――
無数の目玉が指揮官狛犬を取り囲み、焼き討ち。
そのまま囚われたのであった。
「私は助かった、の・・・・・・。」
「おい、気をしっかり持つのじゃ。」
横たわるファナに駆け寄った陽弥瑚はすぐさま治療を行う。
「大丈夫じゃからな。すぐに治してやるからな。」
「あ、貴女様は神上様の―――。あの・・・私は―――。」
「喋るではない!気をしっかり持つのじゃ!」
心から心配する優しさの声に安堵の笑みを浮かべ、ファナをゆっくりと眼を閉じるのであった。




