1話 蒼穹の瞳を持つ少年
「無事に再会できてよかった。」
抱き合う親子を遠目にほっと胸を撫で下ろす蒼穹の瞳を持つ少年の名は土岐遠空也。
今年4月に高校へ進学した15歳である。
彼はある目的の為、1人行動していた。
「日本全国で500人規模の子供達が突然消えてから1週間が経ちましたが、依然として手掛かりは見つからず。今も尚、子供達が消失する事件が起こり続けています。」
量販店に置かれているモニターからニュースが流れる。
「それにしてもまた違ったか。」
徐にポケットから取り出した一枚の写真。
そこには空也と両脇で笑顔で微笑む二人の女の子で写っていた。
「美奈子・・・、紅葉・・・。二人があの世界に連れていかれた事は間違いない。絶対に見つけ出す。」
「へぇ~、君の目的はその二人、という訳か。」
「!!!」
誰もいないはずの背後から突然声をかけられて驚き飛び退く空也。
振り返るとそこには一つの人影が。
顔立ちと見た目から空也と同年代ぽく見える。が、若白髪と前髪の奥から見え隠れする眼光は見た目以上の年の功を感じる。
そして黒装束に漆黒のマント、柄が異様に長い刀――十束剣を携えるその格好はこの世界にそぐわない異様さが。
空也は本能的に身の危険を感じ、無意識に腕輪へ手を伸ばしていた。
「ちょっと待ってくれ。俺は君と事を荒立てるつもりはない。」
しかし空也は警戒心を緩めない。
「背後からいきなり声をかけた事は謝るよ。ただどうしてもお礼を言いたくてね。」
「お礼?」
「ああ、神隠しに遭った少女を救い、旧鼠を捕らえてくれた事にね。」
(やっぱりあの世界の人間だな。)
「感謝しているよ。何せこの気に乗じて神隠しに遭った子供を捕まえて神に売り捌こうとする輩が多くて。とても一人では捌ききれなかったのさ。」
「神隠し?神に売る?」
「成程、やはり君は今この世界で起こっている事もあの世界の事も何も知らないようだね。」
予想通りだ、と言わんばかりの表情を見せる男。
「一体貴方は誰なのですか?」
「俺かい?俺はそうだな・・・・・・、夢幻と名乗っておこうか。」
「夢幻?」
「ああ、何せ名を捨ててからかなりの年月が経っているからね。で、君の名は?」
相手が名乗った手前、こちらが名乗らない訳にはいかないので仕方なく名乗る。
「|土岐遠空也、か。そうか、それで魔眼を。君は遠野の里の末裔だね。」
「知っているのですか?!」
「文献で読んだ程度さ。戦乱の世の時代、とある山里に魔眼を持った者達が暮らす里―――遠野の里があった事。君は時渡りの魔眼を所持していた土岐家の子孫だね。」
「そう見たいですね。俺はほんの一ヶ月ぐらい前に知ったばかりですけど。」
「へぇ~、その割にはその眼を随分使いこなせているようだけど。さてはその一ヶ月の間に幾つもの異世界を渡り歩いてきたようだね。」
全てを読み透かされている感触。
ショートに整えられた頭皮から頬にかけて一筋の冷や汗が流れる。
この魔眼の事を知ったのは1ヶ月ほど前。
中学を卒業した次の日、暴走トラックに襲われて、死に直面した時、突然瞳が茶色から蒼穹へと変化。
その瞬間、見知らぬ世界に飛ばされたのが事の始まり。
その後、この魔眼の事を聞かされ、色んな異世界を渡り歩いてつい先日、元の世界へと戻る事ができたのだ。
「さて土岐遠。先程述べた通り俺は君と敵対の意思はない。何なら君が探しているその二人を見つける手伝いをしてあげよう、と思っているのさ。」
「本当ですか?」
「ああ、俺の手助けをしてくれたお礼さ。それに知りたいだろう。どうしてこんな事になっているのか?」
「はい。」と神妙な面持ちで頷く空也。
「分かった。ならば教えよう。今、この世界とあの世界で起きている事を。」
ついておいで、と誘うように夢幻は背を向け、暗い路地裏へ足を踏み入れる。
空也は大きく深呼吸を一つ、彼の後を追うのであった。