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17話 ちょっとした出会い

「空也、お店を見て回ろう。」

 美奈子と手を繋いで街中を練り歩く。

 どこの店も大入り。

 空也も興味本位から色んな店に目移り。

「何々、びぃむ?・・・。ああ、ビールの事か。さいぼぉく?ハイボールの事かな?平仮名だから読みにくいな。」

「アルファベットや外国語はここで通じないらしいわ。漢字はわかるらしいけど、平民の人達にはあまり馴染みがないそうよ。」

「だから全て平仮名なのか。それにしても酒屋が多いな。」

 お店の八割が酒関係のお店。

 そして、一番客足が多い。

「ここではお酒は常飲料で飲酒も年齢制限なし。だからこの世界はお酒の種類が異様に多いの。」

「詳しいな。」

「陽弥瑚様から色々教えて貰ったから。」

 自慢げに胸を張る美奈子。

「ほら空也、あそこに焼きそばが売ってあるわ。」

「おい美奈子、落ち着いて。」

 美奈子に急かされ屋台で焼きそばを購入。

「美味しい!!」

「本当だ!俺達が知っている焼きそばの味だ。」

「そりゃそうさ。何せ鉄人様直伝だからなあ。」

 屋台主の一つ目入道曰く、この世界は酒には煩い反面、食に関しては希薄。

 調理も乱雑に切って茹でるだけの質素な料理ばかりであった。

 しか二十年程前、神隠しによりやってきた若き料理人が天界の食事事情を知り、一気奮起。

 食の改革を行ったのである。

「おかげ様で今じゃ食は楽しみの一つよ。それにおらみたいに食べ物屋を営む者も増えてな~。」

「へぇ~。」

 一つ目入道の話が終わる頃、焼きそばを食べ終えた二人。

「その鉄人様に会ってみたいな。」

「鉄人様なら近くにいるぞ。」

「え、どこに?」

「ほれ、あそこに。」

 指差す方を覗き見ようと身を乗り出した時、

「きゃあ。」

「ごめんなさい。」

 頭巾を深く被った少女とぶつかる。

「ちょっと空也、何をしているのよ。ごめんなさいね。」

「い、いえ、私も前を見ていなかったので。」

 ぺこぺこと何度も頭を下げた少女はそそくさとこの場から立ち去る。

「なんかあまり顔を見られたくない、て感じね。」

 美奈子の呟きに同意。

「あら?」

 美奈子が何かに気が付き、しゃがみ込む。

「どうした美奈子?」

「これ?」

 拾い上げたのは翡翠石の首飾り。

 かなり年季が入っている。

「さっきの人が落としたかも。」

「追いかけよう。」

 美奈子と共にぶつかった少女を追いかける。

 が、行き交う人が多く見失っていた。

「駄目だ。完全に見失った。」

「空也、その眼で見つけることは出来ないの?」

「俺の眼は万能じゃないよ。簡単に見つけれるのなら紅葉だって今頃―――。」

「ごめん。」

 気まずい空気。

 お互いがそれぞれ明後日の方向へ顔を背けた時、またしても美奈子が何かを見つける。

「あら?」

「美奈子、どうしたの?」

「ねえ空也、あれって・・・。」



「一体、何処に落としたの?」

 焦る少女の名はファナ。

 彼女は首飾りを探していた。

 その首飾りは決して高価な物ではないが大切な物。

 彼女が故郷を離れる際、今生の別れとなる両親から渡された物であった。

「なんで、ずっと肌身離さず持っていたのに。何でこんな時に無くすのよ。」

 自分の不甲斐なさに涙がこみあげるが、寸前で耐える。

 今自分のすべき事は泣く事では落とし物を探す事だと、明確にわかっているから。

 悲しみを押し殺し、引き続き捜索。

 本来ならば、人に尋ねて探す方が得策。

 しかし、人との接触をしたくない想いがその選択肢を躊躇させる。

「どうしよう?でも、あの首飾りは・・・。」

 悩みに悩む。

 自分の都合か、それとも首飾りか。

 悩んだ末、自分の素顔を晒す覚悟で人に尋ねる事を決意したファナは偶然眼にする。

 それは一人の少年が人気のない裏路地へ入る所を。

 その少年がポケットに首飾りを潜ませる所を目撃したのだ。

「ま、待って!!」

 慌てて後を追いかける。

「なっ!」

 少年はファナが追いかけてきた事に心底驚いた様子、咄嗟に顔を隠す仕草にみせる。

「あの、今、中に潜ませた物を見せて貰えませんか?」

 ファナは丁寧な口調でお願いする。

 それに対して少年は忍ばせていた小刀を取り出し、突然襲いかかる。

「ハイっ!」

「痛ッ!」

 ファナは手刀で小刀をいなし、溝落ちに正拳突きをお見舞い。

 彼女は護身術として格闘術を嗜んでいた為、咄嗟に対処することが出来たのだ。

「いきなり襲いかかるなんて、何をするのですか!」

 驚きと憤慨の抗議。

 やましい事があるに違いない。

 衛兵に突き出そうと考えた時、

「え?きゃあ。」

 突然何処からともなく現れた粘着テープがファナの身体に巻き付き、動きを封じた。

「おい、何やってんだよ友井。」

「す、すまない鳥越。まさか見られていたなんて―――。」

(見られた、て何を?)

 問い詰めたいが口を塞がれている為、何も出来ず。

「どうすんだよ、コイツ。」

「このまま放置しておけ。こんな所に人など滅多に来ないはずだ。」

 追跡者を捨て置き、立ち去ろうする友井と鳥越。

「(ま、待って!!) 」

 ファナの叫びの願いは一陣の疾風が叶える。

「うげっ。」「ぎゃああ!」

 薙刀から繰り出された連撃にあえなく撃沈する友井と鳥越。

「み、美奈子!」

「何でお前がここに?!」

「それはこっちのセリフよ。何しているのよ貴方達は!」

 そう、美奈子はコソコソと人目を避けて歩く鳥越の姿を発見。

 不審に思い、後をつけていたのだ。

「さて、貴方達、何をしていたのか、教えてもらうわよ。」

 美奈子の仁王立ちに震える友井・鳥越を尻目にファナを助ける空也。

「大丈夫?」

「は、はい、ありがとうございます。」

 素顔を隠しつつも丁寧にお礼を述べるファナ。

 やや褐色の素肌が特徴的の少女。見た目から空也達より少し年上のように見える。

「あ、そうだ。首飾り。」

 ぐるぐる巻きから解放されたファナは一目散に友井の元へ駆け寄り、ポケットをまさぐる。

「・・・違う。」

 ポケットから出てきたのはお目当て首飾りではなく腕飾り。落胆するファナ。

「あの、君が探しているのはもしかしてこれ?」

「あ、それです!」

 空也が見せた首飾りに喜びを見せるファナ。

「ごめん、俺がぶつかった時に落としたみたい。」

「そうだったのですか、ありがとうございます。」

 何度も何度もお礼を述べるファナ。

 あまりの丁寧なお辞儀に空也と美奈子は恐縮。

 互いにお辞儀し合う、不思議な光景がしばらく続くのであった。

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