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16話 息抜き

「さあ、いらっしゃい!今なら戦遊戯記念でお安いよ!」

「さあ買った買った。」

「凄い賑わいだなぁ。」

「本当にお祭りね。」

 ゲイドロ、という名のバトルロワイヤルが終わって数日後、空也と美奈子の二人は陽弥瑚の計らいで露店が並ぶ街の商店街へと繰り出していた。

 街中多くの人々で活気満載のお祭り騒ぎ。

 その空気に当てられて心なしか美奈子はソワソワ。

 神社の娘である美奈子は祭りでは裏方に回る為、お客として参加するのは初めて。

 故に楽しみで仕方がないご様子。

 一方の空也は少し後めたさが。

 本来ならまだ行方が知れない紅葉を探しに行きたい所。

 しかし、陽弥瑚に止められてしまったのだ。


「その件は九尾が動いておる。空の字はじっとこの街に留まることじゃ。」

「ですが・・・。」

「空の字の気持ちはよく分かるぞ。じっと出来ないのはよくよく分かる。じゃがな、息抜きも必要じゃ。お主、ここに来てからあまり休めておらんだろう。」

「睡眠は十分摂れていますよ。」

「違う違う、身体ではなく心の方じゃ。」

「そ、それは・・・・・。」

「やはりな・・・、お主も九尾と一緒で根を詰める性格じゃな。そんな事では持たぬぞ。」

「・・・・・・。」

「という事じゃ。丁度今、商店街ではお祭りが催されておる。美奈子と二人で遊びに()くがよい。」

「はぁ・・・。」

「気が抜けた返事じゃな。よいか空の字よ、ちゃんと美奈子の事をちゃんと()てあげないといかんぞ。」

「美奈子の事、ですか?」

「そうじゃ。」

 意味深な面持ちを深く頷き、周囲に美奈子がいない事を確認して空也だけに打ち明ける。

「心強くして聞け、空の字よ、美奈子の心にはな、(あやかし)に住みついておる。」

「どういう事ですか!」

「お主や紅葉との一件で心を痛めたせいであろうな。傷ついた心に棲みつき、弱らせていたのじゃ。本当にまあ、よく今まで生きていたものじゃ。」

 陽弥瑚は美奈子と初めて会った時の事を思い出す。

 森を彷徨っていた美奈子の眼は虚ろ、生気を失った屍そのもの。

 いつ自ら命を絶ってもおかしくない状況だった。

「本当に紙一重じゃった。余りにも危うい状況じゃったから保護したのじゃ。」

「それでその妖は?」

 陽弥瑚が首を横に振る。

「何でですか?何故美奈子を助けないのですか!」

「空の字よ。妾達、神は万能ではない。出来ぬ事もある。」

 圧ある言葉に何も言えなくなる。

「人の心とは繊細じゃ。神とて早々と手を出せるものではない。心の傷はな、そう簡単に治るものではない。長い月日をかけて治すほかあるまい。記憶を消して忘れさせたとて治りはせん。それ程の事じゃよ。」

 心臓を握り潰される感覚に息が詰まる。

「よいか、美奈子の心の傷を癒せるのはお主しかおらん。美奈子の事を真剣に考えるのじゃ。」

「真剣に・・・。」

「そうじゃ、勿論まだ見つかっておらん紅葉という女子(おなご)についても同様じゃ。今後、彼女達とどのように関係を紡ぐのか、真剣に考えるのじゃ。」

 年寄りからの助言はここまでじゃ、と背伸び。

 どうすればいいか、答えが出ず悩む空也に満面の笑みでこう締め括った。

「そうじゃ、大いに悩め若人よ。それが青春じゃ!」


「空也、どうしたの?楽しめている?」

 ふと気づけば目の前には林檎飴を手にして狐のお面を頭に載せた美奈子の顔が。

 風貌と表情から大いに満喫している。

「大丈夫だよ美奈子。楽しんでいるよ。」

「そう、良かった。」

 久しぶりに見た満面の笑み。

(ああ、俺はこの笑顔を奪っていたのか。)

 罪の重さを感じる。

 過去への後悔。

 だけど、折れない。

 歯を食いしばり耐える。

 今すべきことは膝をつくことではない。

 やるべき事はただ一つ。

(もう二度、この笑顔を奪ったりはしない。)

 そう強く決意をした。

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