14話 日吉の誤算
「日吉さん、大変です!」
残り時間が五時間を切った頃、美奈子の行方を追っていた日吉達の元に牢屋の防衛を従事していた警官が慌てふためいて伝令を伝える。
「只今、牢屋は泥棒の大群に襲われて危機的状況です。すぐさまお戻りください。」
「何だと、どこの者だ?」
「そ、それが・・・・・・、舞子神が指揮する泥棒の集団でして・・・・。」
「ば、馬鹿な。」と日吉が驚愕するのも無理もない。
舞子神は大黒天の配下の神――従神で戦遊戯では密かに同盟を結んでいる間柄であった。
「そ、そんな事、絶対にありえない・・・。」
「し、しかし現に攻められています。このままでは今まで捕まえていた泥棒達が全員脱獄されてしまいます。」
切羽詰まった懇願に日吉は美奈子の捜索を中断、すぐさま戻る。
警察側の拠点――牢屋はまさに死屍累々とした戦場と成り代わっていた。
牢屋はまだ破られていなかったが、いつ破られてもおかしくない状況。
「これはどういう事だ!」
怒りを錫杖に乗せて地震を誘う。
「どこだ!どこにいる三河!」
足が止まった群衆を掻き分け、泥棒の大群の長で舞子神の代理人、三河を探す。
「日吉、よくも俺に嘘をついたな。」
泥棒達を指揮していた三河が姿を見せる。
怒り狂った三河の顔は真っ赤。
大柄な体躯と手にしている金棒に相まって鬼としか見えない。
「な、何の事だ?」
「とぼけるな!数時間前、俺のアジトに押しかけてきたではないか!これ以上泥棒を捕まえない、と言ったくせに!」
「そんな馬鹿な事があるか!俺はそんな命令など――――。」
「もういい!信用するものか。舞子神様から言われたから仕方なく従っていたが、もううんざりだ。どうせ終了時間が迫った時、警官側も減らして引き分けにする、という約束も嘘だったんだな!」
「そ、それはどういう事ですか、日吉さん!」
誰にも話していなかった真相を暴露されて言葉を詰まらせる日吉。
「覚悟しろ日吉。他の泥棒達もここに集らせた。全て終わらせてやる!」
三河の突撃合図を受け、雪崩のように迫る泥棒側。
「お、抑えろ!絶対に牢屋を破らせるな!」
日吉が命令を下すが、疑心暗鬼が生まれた警官側は上手く機能せず、押される一方。
(くそ!どうなっている!一体誰が三河のアジトに攻めた?絶対に攻めない様に配備していたはずなのに、一体何故――――ッ!)
そこで気付く。
警官側を支配した中、唯一命令に背く美奈子の存在を。
「くそ!美奈子の仕業か!」
「その通りよ!」
両軍入り乱れる最中から特攻を仕掛けた美奈子。
彼女は攻める泥棒側に紛れ込み、機会を伺っていたのだ。
「おのれ~~!美奈子だ。裏切り者の美奈子がいるぞ!」
日吉が下がると同時に友井と鳥越が立ちはだかる。
「ここまで戦況を乱したことは褒めてやる。だが、孤立したお前が不利な状況にいることは変わらない。友井と鳥越、美奈子を始末しろ。」
「私は一人じゃない。頼りになる、心強い『弟』がいるわ。」
その言葉に導かれて颯爽と現れる空也。
「何だこの泥棒!?」
「く、くそっ、強い!」
美奈子と空也の息の合った連携に押し負ける友井と鳥越。
「当り前よ。急造ペアに私達が負けるものですか!」
「7年間の絆を見せてやる!」
足並みが揃った連携攻撃に瞬殺される友井と鳥越。
「さぁ、残るは日吉、あなたのみよ!」
「ぐっ!」
「夢幻さんから重鎮の代理人は徹底的に脱落させろって言われていてね。個人的恨みは―――美奈子を襲った恨みがあったな。とにかく覚悟しろ!」
同時に襲い掛かる。
空也が牽制、動きを封じ、死角から美奈子の斬撃が日吉の身体を貫く。
「く、くそ~~~。」
美奈子へ意識を向ければ空也が隙をつく、かと思えば立ち代わりでまた美奈子が襲い掛かる。
アイコンタクトのみで見事な連携を披露する美奈子と空也。
一つ、また一つ命を落とす。
日吉は立て直す事も反撃する事も出来ず、ただ悪態を喚きながらこの戦遊戯から脱落していくのであった。
「やったわ・・・。」
「美奈子!」
日吉を倒した達成感に浸る美奈子に撤退を伝える。
「上手くいったわね空也。」
「ああ、上出来だ。」
目的を達成した二人は荒れる戦場から撤退。
至る所で乱戦する両者を薙ぎ払い、逃走経路を確保していく。
「それにしてもよく知っていたわね。日吉と泥棒の大将が繋がっている事に。」
「偶然耳にしたのさ。」
その言葉通り、日吉と三河が密会している所に偶々潜んでいたのだ。
「これで両陣営は疑心暗鬼になって共謀はできない筈。後は時間まで身を隠して終わりを待つだけだ。」
「完璧ね。」
空也が考えた作戦は両陣営を衝突させる事。
その為には日吉と三河の共謀を破棄させる必要があった。
そこで美奈子と警官に扮した空也は三河のアジトに忍び込み派手に暴れる事で約束を破ったように誘導したのである。
「でも一つ疑問だけど、何でわざわざ日吉を失格にさせようとしたの?」
「夢幻さんから頼まれて。でもそれは建前、かな。」
「本音は?」
「やられっぱなしは嫌だろう?」
負けず嫌いの美奈子を考えての事。
それを聞かされた美奈子は、
「もう・・・・・・、空也のバカ。」
と頬が緩むのを隠しながら小さく呟いた。




