12話 遊戯の真意
「捕まえたぞ!」
仲間である鳥越の歓喜に日吉は踵を返す。
「よくやったぞ鳥越!」
路地裏に辿り着くとそこには粘着テープで口を塞がれ、全身ぐるぐる巻き状態の美奈子の姿が。
これは鳥越が神から授けられた力。
粘着テープを生き物のように操ることが出来るのだ。
「~~~~~~~。」
呻き声を必死に抵抗する美奈子。
「もう無駄な抵抗は諦めろ。」
錫杖と掲げ、近付く日吉。
その両隣には鳥越と友井が鋭利な刃物を握りしめていた。
「さぁ、死ね!!」
錫杖で美奈子の頭部を強打。
同時に鳥越と友井が刃物を深々と突き刺す。
美奈子の叫び声がテープ越しから聞こえたその瞬間、彼女の身体は霧となり、分散して消えたのである。
「な!こ、これはどういう事だ?」
「身代わりです。俺達は偽物を掴まされたんだ。」
三者それぞれ周囲を見回す。
「まだ近くにいるはず。」
友井の言葉にすぐ側の隠し扉に潜んでいた美奈子がビクッ、一瞬震える。
声が出なかったのは口を塞がれていたから。
彼女は突然背後から襲われ、倉庫らしき暗闇の小部屋へ引きずり込まれたのだ。
そして目の前を通り過ぎた御札が突然美奈子の姿へと変化し、立ち尽くしている所を鳥越に発見され、捕まったのである。
「いや、これは時間稼ぎだ。俺達がここに足止めして遠くに逃げる算段だ。」
やられた!と苛立ちをみせる日吉。
「どうします、これから?」
「なんとしてでも見つけ出す。いくぞ!」
日吉の後に続く二人。
彼達の足音が完全に聞こえなくなり確実な安全が証明された時、ようやく拘束から解放される。
「ふはぁ~。いきなり何するのよ、空也!」
そう、美奈子を助けたのは空也。
たまたま隠し部屋に身を潜めていた彼は逃げている美奈子を発見し、このような行動に出たのである。
時間がなかったので無理矢理、という形になったが、暴れる彼女の耳元で「俺だ、美奈子。」と囁いた事で正体が分かり、二人揃って息を潜めていたのだ。
「無事でよかった美奈子。ここはしばらくの間は安全だからもう少しここで様子を――――。」
「なんで私を助けたの?」
空也の言葉をかぶせての質問。
「なんで私を助けたの?それにあの身代わりは何?」
「あれは夢幻さんから貰った御札だ。」
夢幻の得意技『無影』を収録した御札を前もって受け取っていたのだ。
「そんな大切な物を使ったの?何で、私とあなたは敵同士よ。」
「敵同士じゃない。これは神々の罠だ。」
「罠?」
「ああ、これは普通のケイドロ、いやケイドロでもない。これはただのバトルロワイヤルだ。」
「どういう事?」
「おれはこの遊戯が始まってからずっと疑問だった。何でケイドロに本来ない脱落のルールが追加されている事に。美奈子を不思議に思わなかったか。」
「まぁ、確かに・・・。」
「それに思い出してくれ、開始直前に言ったうずめちゃんの言葉を。彼女はこう言った。『さぁ、何人生き残れれるかしら?』と。」
「あ。」
「どちらが勝つか、じゃない。神々―――この戦遊戯の主催者側は俺達代理人を小馬鹿にしてあざ笑っているのさ。」
空也が告げた真実に言葉を失う。
「多分こうやって同士討ちや裏切りも織り込み済みだったのかもな。泥棒側でも同じような事が起こっている。」
「そうね、陣営の勝利を考えるのであれば同士討ちを禁止するはずだし・・・。」
「ああ、だからここは相手を捕まえる、失格させるのではなく、時間制限まで生き残る事が大切だ。」
一緒に生き残ろう、という想いが伝わり、自然とうれし涙が。
しかし、
<何図々しく涙を流しているの?>
という囁きに空也へと伸ばした手の動きが止まる。
<貴女は空也に救われる資格なんてないのよ。>
(そ、それは・・・・・・。)
<彼に悪いと思うのなら、差し伸べられた手を振り払いなさい。拒絶しなさい。それが貴女への罰。罪への報いなのだから。>
(そうだ、私は拒絶しないといけない。)
自分が犯した罪。
その報いを受けなければ―――。
「美奈子?」
この場から出ていこうとする美奈子の行動に驚く空也。
「私は一人でも大丈夫。余計なお節介は無用よ。」
「危険だ。現にさっきだって―――。」
「大丈夫、って言っているでしょう!!」
拒絶の声が大きかったせいであろうか、空也の動きが固まる。
「もう私の事は放っておいてよ。」
全てを振り払うかのようにここから出ていこうと、した時、
「駄目だ。行かせない。」
空也が彼女の腕を掴み、行く手を阻む。
「離して。私は貴方なんかに――――。」
「俺はもう二度と美奈子を見捨てたくないんだ!!」
「―――っ!」
空也の想いが込められた叫びが美奈子の足を引き留める。
両肩を掴んで振り返らせる。
今まで思い募っていた事をこの時、初めて正面から打ち明けた。
「美奈子、本当にすまなかった。俺が悪かった。」
「え?空也?」
突然の謝罪に戸惑う。
(なんで謝るの?全部私が悪いのに・・・・・・。)
「俺が不甲斐なかった。優柔不断だった。俺がもっとしっかりしていれば美奈子も紅葉も傷つかずに済んだ。こんな事にはならなかった。」
「何を言っているの?悪いのは私よ。私が悪いの。応援するって言ったのに空也と紅葉の恋仲を邪魔して。それだけじゃない。空也の肩を壊したのも――――。」
「違う!俺が悪いんだ。この俺が・・・・・・。自分の事しか考えていなかった。他人の気持ちなど考えずに自分の事ばかり押し付けた。この肩の怪我は何もしなかった俺への罰だ。俺は美奈子と紅葉の優しさに甘えていた。」
今まで言葉にしなこなかった―――出来なかった謝罪を口にする空也。
この時を―――今を逃してはもう二度と美奈子に話せないような気がして。
自分の愚かな過ちを懺悔するかのように語り始めた。




