10話 ケイドロ
代理人達が飛ばされた先はこの戦遊戯の為だけに建築された街。
現界―――つまり空也達が慣れ親しんだ高層ビルなどが建ち並ぶ、近代的な無人の街であった。
その街の中で行われているケイドロ。
警官――追う者と泥棒――追われる者の二手に分かれて警官が泥棒を捕まえて牢屋に入れて、牢屋に入れられた泥棒も仲間に助けられて再び逃げることができる『助け鬼』に分類される、日本の伝承遊びである『鬼ごっこ』の一種である。
『どろたん』、『探偵ごっこ』など地方によって様々な言い方があり、幼い頃に誰もが一度は経験したことがある遊びを今代理人達は真剣に命を懸けて行っていた。
「待ちなさい!」
逃げる泥棒を追いかける美奈子。
その速さは疾風の如く、瞬く間に泥棒に追いつく。
「くそ!」
破れかぶれにクナイを振り回す泥棒。
それに対し美奈子は冷静に対処。
薙刀の穂でクナイを弾き飛ばし、足払いで転ばせて制圧。
「捕まえたわ。」
その瞬間、泥棒の角が1本消えてそして、牢屋へと強制送還となった。
「よし、これで3人目。」
遊戯が開始されて早3時間。
警官側となった美奈子は自信の走力を生かして泥棒側の代理人を捕まえていた。
「さぁ、どんどん捕まえていくわよ。」
やる気十分。
次なる獲物を求め、駆け出していった。
(さて、どうするかだな・・・。)
一方、泥棒側である空也はというと開始早々、戦いを避けるためビルの上階の一室に隠れ潜んでいた。
(まずはルールの再確認をしよう。)
安全を確保できたことを確認して開始直前に発表されたルール説明を思い出す。
(「ルールは簡単。警官役の代理人が泥棒役の代理人を捕まえる。捕まった泥棒はこの街に設置された牢屋に閉じ込められますので、泥棒側は頑張って助けてあげてくださいね。」)
上空に大きく映し出されるうずめちゃんの顔。
(「因みに泥棒は三回警官に捕まると失格だから気を付けてね。後泥棒側も逃げるだけじゃなくて警官を倒してもオッケー。警官も三回倒されると失格になるからね。期限は今から三十六時間。さぁ、何人生き残れれるかしら?」)
この言葉を最後に開始の合図が鳴らされ、今に至る。
「今の現状は捕まった泥棒は23人。で、牢破りが1回か・・・。さすがに失格になった人はいないな。」
強制転移された時に持たされたデバイスで今の状況を確認。
「さてと、これからどういう立ち回りをするべきか、だな。」
残り時間は30時間以上。先はまだまだ長い。
(となると体力温存だな。)
空也は極力戦闘を避け、体力温存する作戦に出る。
(動くのはまだ先かな。多分もうしばらく戦況は均衡するだろうし。少し考えたい事もあるし…。)
引き続き闇に紛れながら静かに行動する事に。
空也の予測通り戦況は均衡。
ただ、時間が経つにつれて警官側が複数人で行動、連携して泥棒を捕まえるようになった事で泥棒側がやや不利に。
そんな中、戦況が大きく動いたのはそれから約十時間後の夜。
物陰で休んでいた泥棒達に警官側が奇襲を仕掛けてきたのだ。
寝ていた所を続々と捕まる泥棒達。
そして泥棒から複数人の脱落者が出始める。
これにより、警官側が一気に優位に立つ―――――と思われたのだがここで事件が発生。
なんと、警官側に裏切り者が現れ、百人以上捕らえていた泥棒達を全員脱走させたのである。
「この馬鹿野郎が!!」
脱獄の手伝いをした警官を殴り倒したのはこの短期間でリーダー格となった代理人。
名前を日吉左京。
やや丸みを帯びた眼鏡と錫杖からインテリ感が強く感じる。
「う、煩い!春日神様を勝たせるにはこれしか方法がないんだよ!」
言い逃れが出来ないのを悟ったのか開き直る。
(陽弥瑚様の言う通りになったわ・・・。)
同系列の神は手を組んでくる可能性がある、と忠告された事を思い出し、苦虫を嚙み潰す美奈子。
「そ、それにお前達も似たようなことをしただろうが!泥棒側から情報を得て捕まえていた癖に。」
「黙れ!!!」
「ちょっと待って!」
と止めに入るが遅し。
日吉は裏切者の頭を錫杖で砕き、殺したのだ。
「何をしているの!」
「裏切り者に制裁を加えただけだ。」
「だからって殺す必要はなかったわ。」
「規律の輪を乱す者がいては我々は勝てない。」
他の代理人達に弁論を始める日吉。
「よいか、我々は連携を用いて多くの泥棒を捕えてきた。それは互いの信頼・信用があってこそ。このような規律を乱す者がいては勝てはしない、そうであろう!我々が勝つには協力すること。これしかないのだ。」
「そう、だな。」
「日吉の言う通りだ。」
口々に賛同し始める他の代理人達。
(これは拙いかもしれないわ・・・。)
美奈子が感じた危惧は現実となった。
その後、泥棒確保に留まらず行動場所も日吉の許可が必要となり、美奈子以外は誰も異議を唱えないようになった。
つまり警官側は日吉の絶対政権となったのである。
「ほほほん、中々面白くなってきておるのう。」
熱燗を片手に高みの見物をする重鎮達。
彼らの周囲には空になった複数の徳利。
代理人達が行っている様を滑稽と高笑いする重鎮達。
酒の力もあり、かなりの上機嫌だ。
「いやはや、中々の見物じゃ。」
「友情モノも良いが、やはり裏切りとかのドロドロした話の方が酒が進みますな~。」
「それでこれからこの遊戯はどうなるかのう~。」
「おんおん、楽しみ楽しみ。」
優雅で身勝手で無責任な態度の重鎮達。
しかし、その後、重鎮の一人の表情が豹変する未来をその時は誰も知る由がなかった。




