9話 第一種目
「本当に肝を冷やしたぞ、空の字よ。」
開会式後、陽弥瑚に身柄を引き受けてもらい説教を受ける空也。
「巫女姫殿にあんな所業を行うとは!神獣達に祟られるぞ。」
「すいませんでした。」
深々と頭を下げたのは陽弥瑚に迷惑をかけた事に対して。
「でも衝撃的過ぎて。咄嗟に身体が動いてしまって。」
「空也が驚くのも無理もないわ。私だって心臓が止まりそうだったわ。陽弥瑚様、神獣の巫女姫様が紅葉にそっくりなら予め言って頂かないと。」
「その事だが、実は妾達も寝耳に水でな。まさか巫女姫殿がお主達の友人に瓜二つだったとは思わなかったのじゃ。」
「陽弥瑚様はもしかして巫女姫様のお顔を拝見したのは初めてなのですか?」
「そうじゃ。妾だけではなく、他の神々もみんな初めてじゃ。」
神獣の巫女姫とはこの街から三千里程離れる場所にある神獣と呼ばれる聖なる獣達が住まう森の守護者の事。
巫女姫は普段から神獣の森に住み、滅多に森から出る事もなく、又普段から素顔を隠しているのだ。
「素顔を見せるのは成熟の儀を済ませる必要があるのですが、いつの間に終わらせたのでしょう?陽弥瑚様はご存知でしたか?」
「知らぬ。他の者達にそれとなく聞いたが皆、知らぬ存ぜぬだったわ。」
「じゃあ、紅葉とは別人?」
「そういう事じゃ空の字。何この世には瓜二つの者が三人おる、というしな。」
陽弥瑚の結論を無理矢理飲み込む空也。
しかし、喉に小骨が引っかかる感じが残ったままだ。
「ともかく、今はこれから始まる一回戦の事に集中する事じゃ。良いな美奈子、空の字。」
「はい。」
「・・・わかりました。」
『まもなく第一種目を行います。代理人は速やかに広場への移動をお願いします。』
放送を受け、やる気満々の美奈子と後ろ髪ひかれる空也。
それを見送る陽弥瑚と蓮。
「蓮よ、一応今回の事を九尾に報告してくれ。」
「かしこまりました。」
「さて、第一種目は・・・・・・・◯×げぇむ!!!」
うずめちゃんの種目発表に代理人達の反応はイマイチ。
それもそのはず。
ほぼ大多数は戦闘系を予測、その為に武芸の稽古をつけてこの日を迎えたのだ。
因みに種目の内容については競技企画係の軍神、建御雷神以外誰も知らない。
これは公平を期す為で建御雷神も自分の代理人には情報を一切漏らしておらず、鍛錬も臣下に全て任せていた。
「ほぽんとえい♡」
印を結び撃ち抜くポーズをするうずめちゃん。
すると代理人達が集う広場全体が突然光り、次の瞬間、◯と×が描かれた二つのフィールドが出来上がった。
「競技説明をするわね。今から20個の問を行うので、それについて◯か×で答えてね。」
(◯×クイズ・・・か。)
フィールドの変化に驚いて巫女姫ショックから気持ちが切り替わった空也。
意識は競技へ全集中できている。
「それでは早速参りましょう!第一問!!自分は猫舌である。◯か×か?」
設問にぞろぞろと移動する代理人達。
移動が殆ど終わったタイミングで◯と×の境界線にロープが張られ、それ以上の移動を禁止された。
「はい、それじゃあ第二問!自分は朝に強い方である。◯か×か。」
「ち、何だよ。聞いた話と全然違うじゃねえか。」
ぶつぶつ文句を言いながら移動する血気盛んな代理人。
力比べに自信がなく、内心ほっと安堵している代理人。
各々がそれぞれの反応を見せつつ主催側の進行に従う中、空也は思考を巡らす。
(一体この遊戯の趣旨はなんだ?フィールドの外には複数の神官達が何かを記入している。一体何を?)
「何だよこのクイズ。どうやって勝敗を決めるんだよ。」
遊戯は続き、移動の最中にすれ違った代理人の愚痴が聞こえた時、一つの閃きが。
(いや待てよ、そう言えば司会進行のうずめちゃんは―――!)
慌てて美奈子の姿を探す。
彼女を見つけた時、すでに16の問が終わっていた。
「何よ、どうしたのよ?」
「美奈子、お前は何回×に行った?」
「え?4回だけど、いきなりどうしたの?」
(俺は2回で後4問。)
「いいから美奈子。残りの問は全て◯にするんだ。」
「何でよ。」
理由を尋ねるが正直言ってゆっくり説明する時間が惜しい。
既に17の問が始まったのだ。
(だけど美奈子は納得しないと言うことを聞かないだろうし。)
17の問を犠牲に簡潔に説明する。
「この競技は勝敗を決めるものじゃない。多分組み分け――二手に分ける為だけに行われているゲームだ。」
「どうしてそう思うのよ。」
「まず今まで出題された問題は全て質問。明確な答えがない。後、外にいる神官が×のほうしか見ていない。多分×に行った回数でチームを分けようとしていると思う。」
「確かに・・・・・、一理あるわね。」
なるほど、と頷いた時、17の問が終わり、18の問へ。
「とにかく、俺の言う通りにしてくれ。」
美奈子が頷いたのを確認して、移動。
18、19の問で空也は×、美奈子は◯に移動。
(よし、これで×の回数は同じ。後は最後の問を◯すれば美奈子と同じ組みになれるはず。)
「さてそれでは最後の問はこちら。男子は◯、女子は×に移動してね。」
「な!」
「あ、虚偽は認めないからね。」
当てが完全に外れた。
「以上で第一種目◯×ゲームを終わりまあす。皆さんご協力ありがとうございました。」
若干ブーイングが湧き上がる中、軽くお辞儀をするうずめちゃん。
「それじゃあ続けて本命の第二種目、いくわよ!ほぽんとえい♡」
次の瞬間、代理人達の頭に角、もしくは警帽のいずれかが。
(やっぱり俺の恐れていた事が・・・。)
自分の頭にできた角を撫でながら悔やむ空也。
彼の視界には警帽を被った美奈子の姿が。
大多数が困惑の中、うずめちゃんは先へと進める。
「第二種目はお待ちかね、ケイドロだよ!!それじゃあ、みんな、位置についてね。ほぽんとえい♡」
次の瞬間、代理人達の足元に突然浮かぶ紋章。
それは一度眼にした――この天界に飛ばされた時に見た紋章と全く同じ。
だから理解する。
自分達は何処かに飛ばされる事を。
「美奈子!」
「く、空也!」
空也が手を伸ばすが虚しくも届かず、代理人達はそれぞれ何処かへと飛ばされるのであった。
夢幻はこの時、門を閉じる作業と行方知らずの子供の捜索でこの場にはいません。




