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0話 神隠し

 村上千鶴香(ちづか)、10歳は膝を抱え泣いていた。

 なぜなら誘拐されたから。

 今彼女は得体のしれない、人ならざるモノ二人が引く馬車の荷台に閉じ込められていた。

「なんで、なんでこんな事になったの?あんなことを願ったから?」

 ほんの些細な事だった。

 朝、小さな事で母親を大ケンカ。

 売り言葉に買い言葉だった。

「お母さんなんてだっいきらい!こんな家、出ていく!」

 そう叫んで玄関から飛び出すと、そこは見た事がない景色が広がっていたのだ。

 森林に囲まれた薄暗い深い森。

 突然の事に戸惑い、立ち尽くしていると突如、草むらの奥から装束を身に纏った鼠―――旧鼠の二人組が現れ、あれよという間に誘拐されたのである。

「キュキュキュ、上手くいったな相棒。」

 人骨をしゃぶりながら喜々する旧鼠。

「ああ、現界(げんかい)から子供を攫って御上(おかみ)に渡すだけで大金が入るなんていい仕事だぜ。」

 ケタケタと笑う声が千鶴香を恐怖へと誘う。

 見知らぬ者に売られる、という事実が絶望の底へと突き落とす。

「お母さんにもう会えないの。イヤだ、イヤだよ。お母さん。」

 ああ神様、お願い。私をお母さんの元に返して。

 いい子にするから。

 ちゃんとお母さんの言う事を聞くから。

「願っても無駄さ。キュキュキュ。」

「そうそう。そもそも君を攫う事を進めているのはその()()()()()なのだからな。」

「だからいい加減諦めて――――なんだぁ?」

 突如、馬が暴れ出し、慌てて手綱を引く。

 馬は道に真ん中に立つ蒼穹の瞳を持つ少年を眼にしてびっくりしたのだ。

「何だアイツは?道の真ん中で立ち止まって。」

「おい見ろよあの少年の服装を。あれは現界の服だ。」

「つまりアイツも神隠しに遭ったクチか!」

「捕らえるぞ!」

 颯爽と馬車から飛び降りる旧鼠。

 腰に携えていた鞭を手にして振るい、少年へ襲い掛かる。

 だが、少年は鋭い足捌きで巻き付こうとする鞭を躱し、反撃へ。

「輝け!」

 左手首に装着していた白銀の腕輪が光り、一瞬にして透明感がある剣へと変貌。

 瞬く間に旧鼠達が操る鞭を切り刻む。

「なんだ!!」

 思わぬ反撃に対応が遅れた旧鼠の片割れ。

 少年の見事な胴打ちを喰らい、ノックダウン。

(後、一匹・・・。)

「動くな!この娘がどうなってもいいのか!」

 千鶴香を人質にする片割れ。

「いや、助けて。」

 刃物を突き付けられる恐怖で涙がさらに零れる。

「さぁ、剣を捨てろ。」

「お嬢ちゃん、怖がらなくても大丈夫だよ。目を瞑って。すぐに終わるから。」

 少年の言われた通りに目を瞑る千鶴香。

「おい、剣を捨てろ!」

 少年は旧鼠の言葉を無視して剣を大きく振りかざす。

 刀身が青白く光り輝く。

 旧鼠は少年が斬りかかる事を察知。

 千鶴香を盾に身を隠す。

「くらえ、時空葬覇斬(じくうそうはざん)!!」

 勢いよく振り下ろされた剣。

 すると刀身の一部が消え、千鶴香をすり抜けて旧鼠だけを斬り裂いたのだ。

「ぎゃああああああああ!」

 肩から噴き出す鮮血を抑えながらその場にのたうち回る旧鼠に剣先を突き付け、懐から取り出した一枚の写真を見せつける。

「さぁ、答えろ。お前達はこの写真に写る女性達を攫っただろう!どこにいる?」

「し、知らない。」

「嘘をつくな!」

「ほ、本当だ。俺たちはこの子供を攫うのが初めてなんだ。」

「・・・そうか。」

 その言葉に嘘がない、と判断した少年は柄で旧鼠の側頭部に強打。

 気絶した旧鼠二人を近くの大木に縄で縛り、そして恐怖で蹲っている千鶴香の元へ。

「あ、あの・・・。」

「大丈夫?安心して、もう怖くないから。」

 少年の爽やかな微笑みと言葉に恐怖は和らいでいく。

 今時のベリーショートの髪型に動きやすさを重視した清潔感ある半袖シャツと長ズボン。

 大柄ではないが鍛えている事がよくよくわかる体格であるが、威圧感はなく寧ろ親しみを感じる。

「さぁ、君を元居た場所に送ってあげるよ。」

「本当に?」

 少年が差し出したハンカチで涙を拭い、優しく頭を撫でてくれた行為に千鶴香の頬は若干赤らむ。

「ああ。さぁ目を瞑って願って。自分が戻りたい場所を。自分の帰る場所を。」

 少年の蒼穹の瞳に促され、強く願う。

 帰る場所―――大好きなお母さんの元へ。


「千鶴香!千鶴香」

 眼を開くとそこは自分が良く知る公園。

 そして目の前には母親の姿が。

「お母さん!」

 脇目も降らず、母親の胸元へと飛び込む。

「ごめんなさい!ごめんなさい。」

「ううん、お母さんも言い過ぎたわ。ごめんね。」

 お互い涙を流し、抱きしめて再会を喜ぶ。

 母親は自分の娘が突然、目の前から姿を消したことに気が動転、必死に町内を駆け回っていた。

 そしてこの公園に辿り着いた時、突然眩い青白い光が見え、ベンチに横たわる自分の娘が姿を現したのだ。

「良かった、本当に良かったわ。」

「ごめんなさい・・・・。ごめんなさい。」

 親子の熱い抱擁はいつまでも続いた。

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