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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第二話 不可視の殺人
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不可視の殺人4



 広間に一同が集まる。幸いにして、姉のキャロンは意識をとりもどしていた。ほかにはグランドン。家令のヘンリーも来ている。もちろん、ワクワクしているジョスリーヌも。


 ワレスは彼らの前で謎解きを始める。


「大勢の見守るなかで、誰がレミを殺そうとしたのか? どうやって? 使われた毒は即効性だ。だから、あの瞬間に、レミが毒を摂取したのはまちがいない。なのに、レミが倒れる直前、誰も彼のそばにいなかった」


 くずれるように泣きだしたのは、キャロンだ。


「やっぱり、レミはわたしの結婚をゆるせなかったのね。だから、そんな方法で抗議しようと……」


 令嬢の肩をグランドンが抱きよせる。


「キャロン。君のせいじゃないよ。レミは繊細な少年だったから」

「いいえ。わたしのせい。レミはあんなに反対したのに……」


 そのようすをながめ、ワレスは核心に迫る。


「キャロン。あなたは今、レミがあなたたちの結婚に反対するために、自殺を試みたと言った。なぜ、そう思ったんですか?」

「えっ? だって……ええ、そうね。なぜかしら?」

「いつも、かたわらにいる人が、そうささやいていたからじゃないですか?」

「どういうこと?」


 ワレスはいったん話をそらす。


「誰も周囲にいないとき、とつぜん倒れたら、当然、誰もが思う。当人が自分の手で毒を飲んだのだと。だが、じっさいにはそうじゃなかった。犯人はあの木の下が、レミの庭での定位置だと知っていた。だから、あの木の真下にいる人だけが毒を浴びるように、その前日に細工をしたんだ」


 キャロンは首をふる。

「あの木の下にいるからって、みんなが見ている前で、どうやって毒を浴びせるの?」


「それはかんたんです。あなたたちの結婚発表の余興で、定時になると水門がひらかれ、噴水が高くあがることが決まっていた。その時間がくれば、ほっといても毒はレミの上に降りそそいだ」


「噴水の水が毒だったと?」

「いえ。噴水は調べたが、無毒だった」


「じゃあ、どうやって?」

「使われたのは、植物性の毒だ。人間には猛毒だが、樹木にはなんの影響もない」


 キャロンはわけがわからないという顔をしている。

 ワレスは彼女の目をのぞきこんだ。


「レミは言っていた。噴水が高くあがると、いつもの場所に水滴が落ちて、本が読めなくなると。つまり、毒はレミのお気に入りの場所の頭上。あの木の枝にあった。枝全体の葉というべきか。

おそらく、犯人は夜中のうちに、毒を混入した水を枝全体にかけた。水は乾き、葉や枝に毒が付着する。そして、噴水が高くあがったとき、その水に溶けて、レミの上に降った。だからこそ、直後にレミのもとへ行ったキャロン。あなたも倒れたんだ。あの木の下で、噴水のまきちらした飛沫を受けたから」


 キャロンはよろめいた。

 彼女は最初から弟が自殺したのだと信じこんでいたのだろう。


「あなたにずいぶん前から、レミとの不仲を訴え、あの子が自殺するかもしれないと言い聞かせていた人物。それが、犯人だ」


 キャロンは涙をこぼしながら、となりに立つ男を見あげる。


「な……バカな。何を言ってるんだ」


 反論しようとする《《彼》》の言葉を、ワレスはさえぎる。


「最初から疑問だったんだ。レミが倒れ、キャロンはすぐに弟のもとへとびだした。なのに、《《あんた》》はキャロンが倒れても助けに行かなかった。おかしいじゃないか? いよいよ二人は結婚するんだろ? 愛する人が死にかけてるのに、ただ見てるなんて。なぜなら、あんたは知ってたからだ。そこへ行けば、自分も毒にやられるのだと。そうだよな? グランドン」


 グランドンはその場にへたりこんだ。



 *



「グランドン。ドルード家よりもっとお金持ちの令嬢との結婚話が出ていたんだそうよ。キャロンがジャマになったから、殺そうとしたのね」


「レミは彼のそういう二面性に気づいていたんだ。それで二人の結婚を反対していた。自分の評判が落ちては困るから、グランドンはそんなレミごと姉弟を消そうとした。レミに何かあれば、キャロンがかけつけることは予測できたからだ」


 帰りの馬車のなか。

 ワレスの推理が聞けて、ジョスリーヌは満足顔だ。


「何よりも、レミの意識が戻ってよかったわ」

「そうだな」


 ワレスが早めに処置したのが功を奏したのだ。

 それとも、弟を思う姉の深い愛が奇跡を起こしたのだろうか?


 なんにせよ、次にあの庭に噴水の作る虹が見えるときは、みんなが笑っているだろう。




 了

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