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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第九話 奇術の殺人

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消えた名画の謎3



「絵がなくなっていることに、祖父母が気づいたのは、そのあとしばらくたってからだ。絵を見にきたドゥエニ伯爵子息がさわぎたてたからだ。屋敷じゅうを探したが見つからない。これが、およそ一刻……いや、ここで時間がたったから、一刻半前の出来事だ」


 ワレスは一瞬、絶句した。


「今日のことなのか?」

「今日だ。まだ客も全員、侯爵邸に残っている。もしも親族の誰かが盗んだのなら、屋敷の外へ持ちだされては、おしまいだと思い、私の提案で足止めしている」

「それをなぜ、今まで言わない?」

「言わせなかったのは、きさまではないか?」

「きさま?」


 ワレスがにらむと、レヴィアタンはとたんにまた萎縮いしゅくした。だが、昂った気持ちを抑えきれなかったのか、とつぜん、ボロボロと涙をこぼす。


「尊敬するおじいさまが死刑になどなったら、私も生きてはおられない。必ず、必ず犯人を見つけて捕らえるのだ!」


 しかたないので、ワレスはベッドをおりた。とりあえず、枕元にぬぎすてた服に着替える。いきなり裸体をさらすワレスに、レヴィアタンはなぜか赤くなった。


「な、なんなんだ?」

「さっさと屋敷に案内しろ。容疑者がそろってる今がチャンスなんだろ?」


 レヴィアタンが呆然とする一方で、ジェイムズはクスクス笑いながら、ワレスの肩にマントをかける。


「そう言うと思ったよ。さあ、行こう」


 というわけで、三人で馬車に乗って、オーボエー侯爵家へむかった。

 治安部隊は言わば国家の軍隊だ。それを任されているのだから、オーボエー侯爵は皇帝陛下の信頼を得ているのだろう。屋敷も大きいし、立派だ。


「おじいさま。助っ人をつれてまいりました!」


 エントランスホールには大勢の親族がつどっていた。そのなかへ颯爽さっそうとわけいるレヴィアタンについていく。暗い顔をした老人が二階の踊り場にいた。オーボエー侯爵だ。すでに処刑を覚悟した顔つきだ。


 階段をかけあがっていくレヴィアタンを、ワレスとジェイムズは追う。

 なるほど。踊り場には少しくぼんだコーヴがある。下部には置物や燭台などを載せる台が壁と一体になっているものの、今はそこに何も飾られていない。


「レヴィ。もう今さら何をしても遅いのだ。わしは素直にこの首を陛下にさしだそうと思う。悪いが、そなたの知りあいには帰ってもらいなさい」というのが、オーボエー侯爵の第一声だ。


 しかし、それでは、ここまで来た意味がない。

 ワレスはコーヴのなかをのぞきこむ。人間一人が立っていられるくらいのくぼみだ。台も立ったまま肘をかけるのにほどよい高さ。おそらく、本来は祭壇なのだろう。神像を置いて祈る場所だ。


 名画というから、とてつもなく大きなものを想像していたが、この場所に入るなら、そこまでではなさそうだ。せいぜい、20号まで。


 その台にこれみよがしにカードが置かれていた。怪盗ルーベンス参上、と記されている。


「こんなものが置かれているが?」


 ワレスがカードを見せびらかすと、いち早く、レヴィアタンがかけよってくる。


「怪盗ルーベンス! こんなもの、私が見たときにはなかったが」

「それはいつ?」

「この屋敷を出て、おまえのところへ行く前だ。絵がなくなったので、入念に調べた」


 これがふつうの貴族であれば、気が動転していて見落としたですむ。だが、まがりなりにも、レヴィアタンは治安部隊の役人だ。さすがにこのサイズのものを見逃がしはしないだろう。手のひらには隠れるが、黒っぽいコーヴのなかで白いカードは目立つ。しかも、祭壇のどまんなかだ。


「怪盗ルーベンスか」と、ジェイムズがつぶやく。


「なんだ? 知ってるのか?」

「数年前に捕まって処刑された大盗賊だよ。義賊っていうのかな。貧しい人たちに盗んだ金をわけあたえたって話があって、庶民には人気なんだ。読本にもなってるのに、君は知らないのかい?」

「知らなかった」


 ワレスのまわりで被害にあった者はいないし、盗まれても、たいしたものでなければ、貴族はさわぎたてない可能性がある。領内のことなら、領主が始末してしまう。


「でも、死んだんだろう?」

「とくに富豪の商人が狙われて、被害が大きかったからね。見せしめとして広場で絞首刑にされたよ。でも、庶民から根強い人気があって、ほんとは捕まったのは偽者で、どこかで本物は生きてるんだ、なんてウワサもある」


 処刑されたはずの大盗賊。

 しかし、ウワサどおり怪盗は生きているのか?

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