表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第九話 奇術の殺人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/60

ワレスの迷宮4



 続いてはマノンの証言だ。


「ボクはワレスと踊ってないよ。だって、ボクのダンスの相手はエチエンヌだからさ。でも、ワレスの相手はたしかに男の子だったね」


 マノンは女の子だが、いつも男装している。となりには女装姿のエチエンヌが立っていた。男女の性別が逆転した少年少女は、ある意味、お似合いだ。二人とも十代なので、身長差もちょうどいい。最初のダンスの相手には最適だ。


「待て。なぜ、少年だとわかる? 服装だけなら、大人の男かもしれないだろ?」


 マノンは妙にハッキリ首をふる。

「子どもだった。大人の背丈じゃないよ」


 しかし、見まわしても、子どもの客はマノンとエチエンヌしかいない。


 最後の証言者はマルゴだ。彼女はいきなり泣きくずれた。悲劇のヒロインだ。


「ワレスを殺したのは、わたしです。だって、あの人はいつも帰ってしまうんですもの。皇都郊外のわたしの小さな庭で、ワレスといっしょにすごせるだけで楽しかった。つらい過去を忘れられたわ。でも、あの人は鳥。すぐにどこかへ行ってしまう。それがつらかった」


 裁判官がカンカンと木槌を打つ。


「証言は以上です。被害者は自分を殺した犯人を指名してください」


 ワレスは困りはてた。そんなこと言われても、皆目わからない。


 すると、証言を終えたマノンが小狐みたいな目をしながら、エチエンヌの耳にささやくのが聞こえた。


「ひひひ。ほんとはエチエンヌが踊ってたのは、ジェルマンなのにね」

「マノンさま。人が悪いですよ」

「違うもん。一つは真実、一つは嘘をつくのがこの法廷のルールなんだよ」


 二つに一つ。真実と嘘——


 ワレスはフル回転で思案した。誰の証言のどこがほんとで、どこが間違いなのか。


 ジョスリーヌはなんと言ったか?

 踊り場にいたので誰とも踊っていないと。ただ、ジョスリーヌの証言は長すぎて、どの部分が嘘だったのかわからない。


 ジェイムズはワレスといっしょに来たのでよく見ていた。ワレスが踊っていたのは、マノンだったと。


 そして、マノンはエチエンヌと踊っていた。ワレスの相手は少年だったと述べた。


 マルゴはワレスを殺したと、その理由はワレスに去ってほしくないから。


 全員が一つは嘘をついている。ならば、全員の証言を照らしあわせて、矛盾を見つければいい。


 ハッキリしている嘘は、マノンだ。エチエンヌと踊っていたわけではないらしい。つまり、ワレスは少年と踊っていた。あるいは、これは男装したマノン自身をふくむかもしれない。


 マルゴもワレスにずっとそばにいてほしいのは本音だろう。でも、ふだんは我慢している。ならば、ワレスを殺したというのは嘘になる。マルゴが犯人ではない。きっと、ワレスを撹乱かくらんさせるための嘘だ。


 ジェイムズの嘘はどうだろう? ワレスといっしょに来たのほうか? それとも、マノンと踊っていたのを見たのが嘘か?

 それによっては、マノンがかぎりなく怪しくなる。


「被害者よ。犯人を指名しなさい」


 裁判官にせきたてられ、ワレスはマノンと言おうとした。しかし、何かがおかしい。何かが欠けている。


(情報がたりない)


 思いきって要求する。

「まだ、ジェルマンが証言していない。ジェルマンの話を聞かせてくれ」

「……」


 しょうがなさそうに裁判官は嘆息した。

「では、ジェルマン。証言を」


 ジェルマンが立ちあがる。

「私は奇術の準備をしていたので、誰とも踊ってはいません。そのとき、階段からおりてくるワレスを見ました。音楽が始まる少し前」


 すべてがつながった。

 だから裁判官はジェルマンの証言を隠したがったのだ。


 裁判官は告げる。

「被害者よ。指名しなさい」


 ワレスはうなずいた。

「おれを殺したのは、ジョスリーヌ。あんただ」


 ジョスリーヌはわざとらしくおどろいている。

「まあ、わたくしが? でも、わたしは二階にいたのよ?」

「ああ、だが、ジェルマンの証言をあてはめれば明白だ。ジェルマンは誰とも踊っていないと言ったが、それは嘘だ。エチエンヌと踊った。ならば、彼の証言の後半は真実だ。そう。おれは階段をおりていた。音楽がかかる直前に。そして、くだけた頭部。高いところから落ちた証拠だ。誰かが、おれを階段からつきおとしたんだ。それができるのは、ただ一人。二階にいたジョスリーヌ。あんただ」


 ジョスリーヌは黙りこんでしまった。ワレスは追い討ちをかける。


「あんたは証言のなかで、『わたしがワレスの死体を見たのは一番あとだ』と言った。あれが嘘なんだろう? あんたは誰よりもさきに死体を見ている。なぜなら、おれをつきとばし、落ちていくところを見ているんだから」


 すると、ほうっとジョスリーヌは長い吐息をついた。


「そうよ。あなたを殺したのはわたしよ」

「どうして殺したんだ?」

「だって、あなたは生き返るんですもの。ほんとの意味では、わたしにあなたを殺せない。それが悔しかったのよ」

「意味がわからない」

「わからない? 考えてもごらんなさいよ。あなたは落ちて死んだあと、少年と踊ってるわ」


 今度はワレスが緘黙かんもくしなければならなかった。そこがよくわからない。頭がくだけてるのに、なぜ、みんなはそのあと、踊っているワレスを見ているのか。


 ジョスリーヌは大粒の涙をふりしぼりながらつぶやく。


「ここはあなたの愛の深さが、そのまま、その人から受ける苦痛の強さになる。そういう世界なのよ。だから、《《あなたをほんとに殺せるのは、あなたが心から愛してる人だけよ》》」


 その言葉に、ワレスは衝撃を受けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ