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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第九話 奇術の殺人

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贋物目利き5

 *



 夜になって、街灯が路地を照らす。無人の小さな家は灯りもなく、闇に沈んでいる。家の主人は今ごろ牢屋のなかだ。オーバンの自宅である。


「なぁ、ワレス。この家を見張る意味があるのかい? 残念だけど、犯人はオーバンで決まりだし、もう捕まったよ。今ごろはレヴィアタンが牢屋で取り調べてる」

「オーバンは犯人じゃない」

「ふうん?」

「それどころか、あいつはたぶん、トマをふった女の息子だよ」

「えっ?」

「だから、トマはオーバンのあつかう商品がみんな贋物だと知りつつ、勧められるがままに買い集めた。品物が欲しかったわけじゃない。オーバンを生活させてやるためにだ」


 ジェイムズは心底おどろいている。


「そんなの、なんでわかるんだ?」

「オーバンの店で見た天使の像。ひたいに星の飾りをしてた。それに、ペネロープは大切にしていた人形を月の精と呼んでいただろ? 月と星。おそらく、対になってるんだろう」

「でも、君は『月の精』を見てはいないだろう?」

「ナランジーヌが言っていた。子どもの作ったできそこないだと。それはまさに、おれがオーバンの家で見た天使を見て思ったことだ」


 ジェイムズは大げさに感心した。


「うーん。なら、それがトマとオーバンが親子だという証拠か」

「親子かどうかまではわからない。ただ、オーバンはあれを母の形見だと言った。きっと、トマが若いころに贈ったんだろうな」


「だったら、オーバンはトマの月の精が自分のそれと対だと気づいて、盗んだのかもしれないぞ?」

「それはない。オーバンに頼まれれば、トマは安価で譲っただろうから。なぐって殺そうとするほどに商談がこじれるわけがない」

「それもそうか。じゃあ、いったい、誰がトマを襲ったんだ? やっぱりベルナールかな? しかし、彼は体形があまりにも違う」


 ワレスは街灯に浮かぶ石畳を見すえつつ、話を続ける。


「トマの屋敷から出ていったという怪しい男だが、それを見たのは誰なんだ?」

「そう言えば、関係者の聴取をしてるときに出た話だと、レヴィアタンは言ってたな」

「関係者なら、昼間に集まっていた連中のなかの誰かだ。その証言じたい、信用できない。自分たちがユイラでは目立つ体形だと自覚があるから、わざと反対のタイプを見たと嘘の証言をしたんだ。自分の犯行をごまかすためか、あるいは親族のなかから罪人を出さないために」


 そのとき、街灯が人影を照らした。特徴的な丸い影が石畳に伸びる。黒いマントで身を隠しているものの、体形はごまかしようがない。

 その人物は人目を忍ぶようすで、そっとオーバンの自宅へ入っていった。店舗をかねているくせに、オーバンは鍵をかけていなかったらしい。


 追っていこうとするジェイムズを、そっとひきとめる。


「でも……」

「まだ早い」


 その人物が犯人だと断定するためには、盗みの瞬間を押さえるしかない。消失した月の精と対になった天使を、その人が狙う瞬間を。


 しばらくして、同じ人影が扉をあけて出てきた。手に何かをにぎっている。


「今だ。ジェイムズ」


 ささやくと、ひと足早く、ワレスは走りだした。


「その天使をどうするつもりだ?」


 人物の前に立ちはだかる。その人はギョッとすくんだのち、逃げだそうとした。が、そこへジェイムズが追いつき、前後から、はさみうちになる。マントの人物はガクリとひざを折った。


「いったい、誰なんだ?」と言ったのは、ジェイムズだ。ワレスには予想がついている。


「おれは知ってる。マントを外してみてはどうだ?」

「うん」


 街灯にさらされた顔を見て、ジェイムズはうなる。


「コラリーさん。あなたですか!」


 天使の像をにぎりしめたまま、コラリーはうなだれた。



 *



 翌日。

 どうしても気になるらしく、ジェイムズがワレスのアパルトマンをたずねてきた。


「けっきょく、どういうことだったんだ? ワレス。なんで、コラリーは金持ちなのに、あんなガラクタを盗んだんだろう?」


 ワレスはベッドのなかから、チラリと友人をながめる。

 昨日は深夜までオーバン宅を見張っていたし、そのあと、コラリーをひきつれて治安部隊に乗りこんだので、寝たのは朝方だ。ジェイムズだって同じ条件のはずなのに、なにゆえ、こんなに元気なのだろう?


「そもそも、そこがまちがいなんだ。たしかに、トマの屋敷にある美術品はほとんどガラクタだ。みんな、そう信じこんでいた。だが、そのなかに一つだけ、ほんとにものすごい価値のものがあった。たぶん、くわしく鑑定したら、名のある作者の貴重な作品だよ。コラリーだけがそれを見ぬいていた」

「えっ! あのぶかっこうなできそこないが?」

「そう見えるよな? だが、コラリーはこう言ったんだ。『伯父さんは価値をわかってない。もったいない』と。たぶん、売ればそうとうの額になる。城が買えるくらいの。暮らしむきが豊かとはいえ、コラリーのドレスは地味だった。それほどの大金になら目がくらむ。譲ってほしいと頼んだのかもしれないな。でも、断られた。真価も知らないくせにと、コラリーは腹を立てたんじゃないか? 愛する人の思い出の品物だから、トマはそれをほんとに大切にしてくれるペネロープに、いずれ継いでほしかっただけなんだが」


 ジェイムズは感嘆した。


「さすがだなぁ。ワレス。お見事。コラリーがオーバンのうちに来ると予測していたしね」

「関係者をぞろぞろひきつれて、それぞれの家をまわったろ? あのとき、コラリーは月の精に対となる天使があると知ったんだ。美術品は対がそろってるほうが格段に価値があがる。どうしても欲しくなったんだろ。幸い、オーバンは牢屋につれていかれて、家は留守だしな」


「オーバンが君に感謝していたよ。月の精が戻ってきたので、トマもコラリーを訴えはしないようだし、一件落着だ」

「そんなの、おれの知ったことじゃない。レヴィアタンの悔しがる顔が見たかっただけだ」

「またまた。ほんとは嬉しいくせに」


 満面の笑みでジェイムズが言うので、ワレスは照れ隠しに、枕に顔をうずめた。

 ジェイムズといると調子が狂う。


「じゃあ、ワレス。次は釣りに行こう」

「イヤだ。ちょっとは寝かせてくれ」

「もう昼間だよ」

「布団をはぐな。バカ」

「さあさあ」


 そっとしておいてくれない友人に、ムリヤリ布団からひっぱりだされる。でも、それが不思議と快い。




 了

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