贋物目利き4
そのあと、ワレスたちは関係者の屋敷を一件ずつまわった。どの店も羽ぶりがよく、トマの小さな家と大量のガラクタのために殺人を犯すはずもないと証明された。
ただ、オーバンの店だけは、ほかの三人ほど順調ではないと、ワレスは見た。置かれている品物が、あまりよろしくないのだ。真偽の疑わしいものか、路傍で売っている粗悪な日用品だ。
「そういえば、トマはこの店の顧客だったな。どおりで、トマの屋敷にあるのと同じ水準だ」
要するに、ほとんどが二束三文のガラクタだ。審美眼がないのは、トマだけではないらしい。
オーバンは照れくさそうに笑う。
「いや、お恥ずかしい。由緒ある貴族のかたから買いとった品物もあるんですがね。ほら、この天使の彫像なんか、八百年前の様式ですよ。星の飾りが美しい。まあ、作者は不詳だが、たぶん、悪くないものだと思うんだ。ま、これは母の形見ですがね」
子どもが粘土で作った人形を壁にぶつけたような小さな像をさして言う。
この男、これでよく暮らしていけている。トマがいなければ、とっくに路頭に迷っていたのではないだろうか?
ひととおり見たあと、一同はまたトマの屋敷に戻った。ほんとは二人以上の人間が集まるのには不向きの家なのだが。
「私はもう犯人がわかったぞ」と、レヴィアタンは意気揚々だ。
この段階で犯人を断定するのは時期尚早と、ワレスは思っていた。レヴィアタンのこの発言を半信半疑で聞く。
「おまえはまだわからないのか?」
勝ち誇った顔でレヴィアタンはワレスをながめてくる。
「やはり、無学の平民の知恵など、そのていどだな」
やることなすこと、とにかく、いまいましい。
ジェイムズがおだやかにあいだに入る。
「ワレスは騎士学校を卒業してる。それも飛び級で。決して無学じゃない」
「それだって第二校だろう? 第二校なんて寄付金さえつめば、誰だって卒業できるんだ」
「第一校だ」
レヴィアタンはいぶかしげになる。
「第一校は貴族の学校だ。なぜ、平民の彼が?」
「それは……」
ジェイムズは説明しようとしたが、ワレスはイライラしてその口をふさぐ。
「そんなことより、犯人がわかったというなら聞かせてみろよ? もしもそれが正解なら、素直に負けを認めて、おまえの前に土下座してやるよ」
「いいだろう」
レヴィアタンは威丈高に胸をそびやかす。
「犯人はオーバン。おまえだ! トマが死ねば、この店の美術品をタダで手に入れられる。それを売って丸儲けしようとしたんだな?」
ワレスはあきれた。が、まあいい。これなら土下座はしなくてすみそうだ。
レヴィアタンはさらに続ける。
「そもそも、この屋敷から逃げていったのは男だ。それも、体形から言って、ベルナールではありえない。このなかで該当するのは、オーバン。おまえだけだ」
オーバンはもう死人のように蒼白だ。
「そ、そんな。私じゃありませんよ。そりゃ、この屋敷の美術品を売れば、多少の金にはなりますよ? でも、トマさんはうちの一番の顧客だ。トマさんが死んでしまったら、そっちのほうが損害じゃないか!」
「言いわけはいくらでもできる。きっと、借金でもあって、急な金が入り用になったんだろう?」
「借金なんてありませんよ!」
「最初はみんな、そう言うんだ。さあ来い。取り調べだ。牢屋のなかでも同じ主張ができるかな?」
「た、助けてくれぇ。ほんとに私は知らないよ」
オーバンはムリヤリ外につれられていく。家の外にはレヴィアタンの部下が数人待っていた。連行されれば、きっと自白を強要されて、オーバンはそのまま犯人に仕立てあげられてしまうだろう。
ワレスには関係ないことではある。関係はないが、しかし、そのあと、レヴィアタンは自慢たらたらの顔で、ワレスに土下座を強いるに違いない。それだけはゴメンだ。
すると、そのとき、とつぜん、二階からバタバタと女の子がかけおりてきた。ナランジーヌの娘ペネロープだ。どうしたことか大泣きしている。
「ない! ないわ! わたしの月の精がなくなってる!」
わあわあと泣きじゃくり、しばらく話にならなかった。ナランジーヌがあきれた顔でなだめる。
「あのできそこないの人形ね。あなたはなぜか昔から、あれが大好きだったものね。でも、なくなるわけないわ。あんなもの盗んでも、なんの価値もないんですもの」
「あれはわたしのよ。伯父さまはいつも、わたしにくださるっておっしゃった。わたしの大切な友達よ」
「困ったわねぇ。高価な陶器のお人形だって、たくさん買ってあげたのに。なんだって、あんな古くさい天使なんか好きなのかしら? どう見ても子どもの作ったできそこないなのに」
コラリーも同意見だ。
「伯父さんは物の価値がわからない人でしたものね。ほんとに、もったいないこと」
ワレスは考えこんだ。
犯人がわかった。だが、証拠がない。




