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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第九話 奇術の殺人

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贋物目利き2



 富裕層の商人が集まる高級住宅街のすみに、その屋敷はあった。ギリギリ屋敷と言えなくもないが、豪邸とはとうてい言えない。そういう家だ。

 二階建てで間口もせまく、裏側が別の家と接しているので裏口はない。通りに面した表口がゆいいつの出入り口である。


「盗人がわざわざ狙う屋敷ではないな。しかも、なかにある美術品は全部、贋物だと近所じゅうに知れ渡っていたんだろ?」

「だが、トマが亡くなれば、屋敷と土地を相続できる人たちがいる」


 ワレスはジェイムズのおぼっちゃま然とした顔を見つめた。ジェイムズが困惑する。


「何か?」

「ときどき、するどいんだよな」

「私だって役人だからね」


 つまり、遺産を狙って、親族が強盗を装い、トマを殺害しようとした。おそらく、それが真相なのだ。出ていった不審人物が小脇にかかえていたというのは、凶器に違いない。


「家に入る前に謎が解けたじゃないか」

「いやいや。いちおう、せっかく、ここまで来たんだから、なかも見てみよう」

「でも、起こったばかりの事件だろ? まだ裁判所預かり調査部の管轄じゃない」


 ジェイムズの属する裁判所預かり調査部は裁判にあたって調査が必要なときに活動する部隊だ。

 事件直後に調べるのは、犯人を捕まえるための機関。地方では領主の勤めだが、皇都においては、その役目を皇帝陛下から治安部隊が一任されている。文字どおり、皇都の治安を守るための部隊である。


「治安部隊にイヤな顔をされるんじゃないか?」

「ところが、そうじゃないんだよ」


 話しているやさき、目の前のドアがひらく。黒髪をキレイになでつけた男が立っている。青い目のハンサムな青年だ。治安部隊の制服を着ている。それも、表が黒、裏が緑のマントの意匠から言って、あるていど上位の隊長だ。


「ワレス。紹介するよ。こちら、治安部隊第二中隊の隊長、レヴィアタン・ル・レイ・シモン次期伯爵だ」

「……」

「……」


 ワレスは次期伯爵という高慢な顔つきの青年と、一瞬、見つめあった。こっちも不信の気持ちをこめたが、むこうもベンジョコオロギを見る目で、ワレスを蔑んでくる。


「だましたな。ジェイムズ。最初から、こいつとひきあわせるつもりだったのか?」


 くるりととなりの友人を真正面からにらみつける。が、ジェイムズはいつもどおりの屈託ない笑顔を見せていた。


「私の実績があまりにもスゴイから、どちらがさきに犯人を見つけるか勝負しようと言われてね。最初、断ったんだ。私の功績はじつのところ、天才の友達のおかげだからと。だが、それなら、天才の友人とやらを呼んでこいと誘われて。私もほかの部署の役人と知りあう機会はめったにないから、ぜひ協力して事件を解決したいなと」


 ワレスは聞いてるうちにクラクラしてきた。それは協力ではない。挑戦されたんだと、なぜ気づかないのか?

 しかし、そうなると、とたんにワレスの負けず嫌いがムクムクと頭をもたげてくる。ワレスが平民でジゴロだからって、初対面でベンジョムシあつかいされて、おとなしくひきさがってはいられない。


「わかった。受けてたとう」


 レヴィアタンはあからさまに侮蔑の目で笑った。


「何、犯人はもうじき我らが捕まえるとも。が、迷宮入りの事件を次々と解決に導いた調査部鬼才の懐刀がいかほどのものか、その腕前は見せてもらいたい。君たちにチャンスをあたえよう。どうぞ、なかへ」


 ワレスはまたジェイムズをかえりみた。


「いつのまに、調査部の鬼才なんて呼ばれるようになってたんだ?」

「君がいくつも難事件を片づけるからだよ。全部、私の手柄になってるからね。おかげで給料も役職もあがったし」

「……おまえ、おれに一杯おごれ」

「だから、いっしょに釣りに行こう。帰りに夕食をおごるよ」

「……」


 こういうやりとりが心地よいのはなぜだろう?

 ルーシサスとの墓碑にも似た永遠の愛に身をゆだねていたいはずなのに?


 しかし、今はもう戦闘態勢ファイティングモードに入ってしまった。絶対に次期伯爵さまの鼻っぱしらをへし折ってやらなければ気がすまない。

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