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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第九話 奇術の殺人

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奇術の殺人6



 ワレスが裏庭にかけつけると、すでにジョスリーヌやそのとりまき、招待客が集まっていた。

 あの欅の大木にブランコがつりさげられている。まちがいなく、ジェルマンはアダンが失敗したという奇術をやるつもりだ。


 ワレスはあわててジェルマンを探す。登場口にはマルヴィが作っていた舞台背景のようなものがあり、その裏で何やら師弟が話している。


「でも、ジェルマン。やっぱり、やめたほうが」と、ひきとめるマルヴィに、ジェルマンは首をふる。

「いや、これを成功させなければ、アダンが浮かばれない」

「でも、あのときとは条件が違うんでしょ?」

「鍵も鎖もあのときのものだ。馬は違うが、奇術には影響しないだろう」

「でも——」


 ワレスは二人に近づいた。

「アダンが死んだマジックをやるんだな?」


 とたんに、ジェルマンたちは黙りこむ。が、ジェルマンはすぐ、あきらめたようにため息をついた。


「さすがだな。アダンの事故を調べたのか。いや、私はそれを期待していたのかもしれないな。おまえに頼むというのは、そういうことだ」

「ジェルマン。一つ聞きたい。これまで妨害が起きたのは、この屋敷のパーティーでだけか?」

「いや。侯爵家にかぎらず」

「今日も起こった?」


 ジェルマンはうなずく。

 すると、マルヴィが口をはさんだので、ジェルマンと言いあいになる。


「だから、わたしはやめたほうがいいって」

「そんなわけにはいかない。ジョスリーヌはもう客を招待して待っている。とりやめにすれば、失望するだろう」


 ジェルマンは馬車の御者台にあがり、そこにとりつけられた鎖を自分の腕にまきつける。


「さあ、マルヴィ。錠前を渡してくれ」


 今度は師弟のあいだに、ワレスが割って入った。

「待て。今日は何がなくなったんだ?」

「たいしたものじゃない。馬をあやつるムチだ。でも、かわりが手に入った」

「見せてくれ」


 ジェルマンは馬車の上から乗馬用の小さなムチをなげてきた。思ったとおりだ。よく見なければわからないが、ムチの先端に針がしこんである。毒針ではなかろうか。


「わかったぞ。ジェルマン。おまえを狙ってるやつが」


 ジェルマンの顔色は蒼白になった。マルヴィもキッと唇をかみしめる。


「わたしじゃありません!」

「それは違うな。小道具を隠したり、細工をしたのは、マルヴィ。おまえだ。おれを警戒していたのは、謎解きが得意だと知ってたからだろう? 自分の秘密を隠しておきたかったから。それは犯人の習性だよ。マルヴィ、おまえのほんとの名前はマルヴィアだ」

「……」


 止めに入ったのは、ジェルマンだ。


「いいんだ。ワレス。彼女にはそれだけのわけがある」

「マルヴィアはアダンの娘だな? ジェルマン。あんたもそれを知っていた。奇術のタネに仕掛けされるようになって、すぐに犯人はマルヴィアだとわかった。おまえは多くの屋敷に招かれて奇術を見せる。どこかの場所特定なら、その屋敷にいる人物の仕業だ。でも、いつも何かが起こるなら、それはおまえのすぐそばにいる者のせいだ。弟子のマルヴィ以外にいない。だからこそ、おれにそれをやめさせてほしかったんだろ?」


「マルヴィは誤解してるんだ。私がアダンを殺したんだと思ってる。だから、それは違うと今日、この場で証明したかった」

「念のため、おれに謎解きを頼んだ。もしも、自分が失敗し、うまく証明できなかったときのために」

「そうだ」


 ジェルマンはどこか悲しげで、それでいて慈愛に満ちた眼差しをマルヴィアになげる。


「弟子になりたいと言ってきたときから、アダンの娘だとわかった。なにしろ、君はアダンにそっくりだ。だが、ベッサリーニにも似ている。二人の娘だと気づいた。素性を隠しているのは、おそらく、アダンの死について調べに来たのだろうと察した」

「師匠……」

「だが、それとわかっていても、この二年間は楽しかったよ。アダンが帰ってきたようで。あのころを思いだした。ワレスに頼んだのは、もしも私が死んで、おまえに疑いがかかったとき、きっと彼なら、うまく対処してくれると思ったからだ。おまえが罪をかぶらなくてすむように」


 マルヴィアの瞳から涙がこぼれおちる。父のかたきかもしれないと思いながら、マルヴィアにとっても、ジェルマンとの奇術に明け暮れる日々は楽しかったのだろう。


 ワレスは嘆息した。


「おまえたちは誤解してるよ。ジェルマン。もう一つ聞く。以前、ほんとに危険な細工がされていたときが一度だけあったと言ったな? 脱出用の鍵がなくなっていたと」

「ああ」

「それはどこで起こった?」

「そういえば、この屋敷だった」

「やはりな」


 ワレスは考えた。

 師弟の誤解をとくためには、もうひと働きしなければならないと。

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