奇術の殺人3
ジョスリーヌは年下の美青年をまわりにたくさん、はべらせておくのが趣味だ。ワレスもそのなかの一人だが、ジェルマンはジョスリーヌより年上だろう。経済的援助は純粋に彼の才能に対するものだと、彼女は語った。
「だって、美しい男は皇都に大勢いるけど、天才奇術師はジェルマンしかいないものね」
「どこで出会ったんだ?」
「彼の前におかかえにしていた奇術師がいたのよ。ジェルマンより十は年上だったかしら? でも、天賦の才はジェルマンのほうがずっと上ね」
「なんて名だ?」
「アダンよ」
「アダンは今どこに? おかかえだったんだろ? ジェルマンがいるから、もういらないと追い払ったのか?」
とたんに、ジョスリーヌのおもてが悲しげになる。
「死んだのよ。事故でね。十年も前。アダンはジェルマンの師匠であり、友達でもあった。わたしはアダンからジェルマンを紹介されたの。ものすごい男がいるからって。そのすぐあとだった。あの事故。今でも残念だわ。奇術の腕はイマイチだったけど、アダンはとても美男だったから」
「おれよりも?」
ジョスリーヌは笑って、ワレスの頬をなでる。
「あなたとはぜんぜんタイプが違うわよ。どちらかと言えば、ジェイムズに似てたんじゃないかしら?」
「ふうん。ジェイムズにね。アダンが死んだ事故というのは?」
「奇術が失敗したのよ」
「そんなに危険な奇術だった?」
「ふだんは小手先のテーブルマジックを見せていたのよ。彼は顔がいいことを自覚してたから、貴婦人のとなりでカードやコインを消して見せるような。白くて長いキレイな指でね。なのに、あのときはなんで、あんな大がかりな奇術をやろうとしたのかしらね?」
「さあ。おれに聞かれても」
どんな奇術だったのか、くわしく聞くと、ジョスリーヌはこう答えた。
「無蓋の馬車に乗って登場してきて、かけぬけるのよ。両手が鎖で御者台につながれていてね。その鎖は錠前でとめられているの。馬車がいなくなった直後、枝につりさげたブランコから現れて、観衆をおどろかせるのよ」
なるほど。派手で見栄えのいい奇術だ。ジェルマンが得意とする脱出系である。
「その奇術で、アダンは失敗したんだな?」
「馬車が庭木に激突したわ。アダンはブランコが首にからまって……」
なかなかの大惨事だ。貴族の園遊会でそれほどの事故が起きれば、そうとうな醜聞になったのではなかろうか。
「あなたも見ていたのか?」
「もちろんよ。うちの庭だったもの」
「中庭?」
「いいえ。裏庭。あっちのほうが広いでしょ?」
皇都の屋敷なので、彼女の領地にある城にくらべれば小ぶりとは言え、馬車を走らせるには充分すぎる敷地である。
ワレスはその場所へ行ってみることにした。
「ところで、アダンには家族がいたか?」
「それはジェルマンに聞いたほうがいいんじゃない? わたくしよりよく知ってるわ」
「それもそうだ」
家族があれば、復讐の火種になったのではないかと考える。もしそうなら、アダンの死はただの事故ではなかったことになるが。しかも、その死にジェルマンが関係していた?
(いつもとは違う大きな奇術をとつぜんやりだす。それじたい不自然だ。何か裏があったのかも?)
ジェルマンやマルヴィが隠しているのは、アダンの死の真相ではないだろうか?
マルヴィは年齢的に当時の事件をちょくせつ見てはいないだろうが、師匠のジェルマンから聞いた可能性はある。
ワレスは一人で裏庭へ行った。
ラ・ベル侯爵邸の中庭は美しいガーデンだが、裏庭は森に近い風情で造園されている。
その中央あたりに広い空間があり、ベンチや彫像などが置かれていた。噴水もある。裏庭で園遊会がひらかれるときは、ここが使われるのだ。
たしかに、その広場のまんなかに、欅の大木がある。ブランコをつりさげるのにほどよい。アダンの事故があった当時より、木は成長しているだろうが、高さはブランコのロープの長さで調節できる。
ワレスが欅のまわりを入念に調べていると、どこからか視線を感じた。ふりかえると、下女が一人こっちを見ていた。まきをかかえていたから、台所で使う《《たきぎ》》をひろっていたのかもしれない。それにしては、やけに強い視線だったが。
ワレスの美貌に見とれていたわけではないだろう。距離が遠すぎるし、それに人から注視をあびるのになれたワレスにはわかる。人が好感を持ってながめる目と、そうでないときの違いが。
女はワレスと目があうと、あわてて立ち去っていく。
怪しい。
ワレスはそっと女のあとを追った。




