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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第一話 おばあさまの指輪
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おばあさまの指輪3



 その場がまた緊張する。

 犯人はいったい誰なのか?


 ジェイムズの家族? たとえば、伯母が? 厳しいけど召使いをかばうなど、思いやりのある伯母を、ジェイムズは尊敬していたが、未婚だ。まさか、それで指輪を使って逆プロポーズでもするつもりだろうか?


 あるいは忠義な小間使い?

 テレーザが盗人とは思えないが、ほんとはお金に困っているとか?


 それとも友人たちの誰か?

 可愛い女の子に告白するため?


 たとえば、指輪をはめたのを見たというルーシサスの言葉が嘘なら、彼には盗む機会があった? 一人だけ水遊びをしてないし、席もジェイムズに近い。


 ドキドキしていると、ワレサが述べる。


「ジェイムズさまは髪をふき、席につく前に指輪をはめていた。そうですね?」

「たぶん。ルーシサスもそう言うし、なんとなく、そんなおぼえがある」

「だとしたら、そのあと、あなたの手から指輪をぬきとることができたおかたは、お一人しかありません」

「そんなわけはないよ。誰も僕のそばには来なかったし、ましてや手にはふれなかった」

「ほんとに? ほんとにそうですか? よく思いだしてください」


 ジェイムズは考えた。しかし、伯母や母に手をたたかれるほど悪いことをしたおぼえもないし、小間使いがジェイムズの手にさわるはずがない。友人たちは遊びの最中なら手をつないだり、肩を組んだりもする。しかし、飲食のときには、カップやティーフォークで手がふさがってるのだから、それはない。


 頭をひねるジェイムズを見て、ワレサがため息をついた。


「幼な子というのは、誰の目にも透明なのです。ふれたがったり、手をにぎってきたり。でも誰も気にしない。小さな子というのは、そうしたものだから。そこに意味なんて存在しないからです。ジェイムズさま。あなただって、さっきから何度もジュッペさまに《《手をにぎられて》》いますよ」


 おどろいて、ジェイムズはジュッペを見なおした。小さな妹は自分のことを言われていると理解したのか、嬉しそうにジェイムズの手をにぎりしめてきた。

 そう言われれば、ほとんど意識してさえいなかったが、ジュッペはずっと周辺をウロチョロしていた。


「まさか、ジュッペが?」

「はい。おそらく」

「でも、なんで? 妹は指輪の価値なんてわかる年じゃないはずだ」

「価値はわからなくても、キラキラしてキレイですから」


 ジェイムズは妹にとびついて、両手をひらかせた。服のなかやポケットなど、隠しておけそうな場所を調べる。


「ないよ。ジュッペは持ってない」

「そうでしょうね。指輪はたぶん、僕の頭のどこかにあります」

「えっ?」

「自分では見えないのですが」


 そのとたん、ジュッペが踊りながら、ワレサのほうへかけていった。


「キラキラー! お姫さまー!」


 伯母や母がさわぎだす。

「あら、わたしの帽子のリボンがない」

「まあ、わたしもですよ! サンダルのヒモまで。いつのまに?」


 こうして、指輪は見つかった。ジュッペが叱られたのは言うまでもない。



 *



「そうそう。思いだした。おまえの妹が、おれの髪にジャラジャラ飾りつけてくれて、『このクソガキめ。さっさとあっちへ行け』って思うんだが、あのころ、おれは猫かぶってたしな。文句も言えないから、ぜんぜん離れてくれなくて」


「君のことを本のなかのお姫さまだと思ってたみたいだよ。まさか、だから君は、私のうちに遊びに来てくれないのかい?」

「ガキの相手は疲れる」


「もうジュッペも十三歳だよ。それに、花やリボンもけっこう似合ってた」

「うるさいな」


 そのとき、ようやく、釣り竿がしなった。


「ジェイムズ。来てる、来てる」

「ああ。任せてくれ」


 そういうジェイムズの指には、あの指輪が光っている。今のところ、まだ必要ないらしい。誰かに求婚する予定はないということだ。

 当分は男友達と、のんびり釣りをする。そんな毎日だろう。




 了

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