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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第七話 お菓子の家の魔女

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お菓子の家の魔女2



 女の住居をマキフロンから聞いた。


 皇都には皇宮を中心とした貴族区、それに続く大商人などの金持ちが暮らす屋敷街があり、そこから南が庶民の住宅街だ。小商人や雇われ労働者の家。共同住宅も多い。

 さらにその周辺に森や農耕地がひろがる。


 庶民の住宅街のなかには、いくつか市場があり、南へ行くほど格式が落ちていく。最南端まで行くと、いわゆる下町だ。いかがわしい連中が多い。


 だが、マキフロンの店はもっとも北の市場に近く、周辺には、こぢんまりとしつつも暮らしやすい一軒家が多かった。中産階級の街だ。

 ワレスやジェイムズのような、いかにも貴公子然とした身なりの男が歩いていても、さほどは目立たない。


「こんなところに人さらいのアジトがあるかな?」

「おまえが言いだしたんだろう? ジェイムズ。ほら、このかどをまがった場所だ。ああ、あの家だな」


 日は刻々と暮れゆき、茜色の空に家々のシルエットが黒く浮かびあがる。どの家からも灯火の明かりがともりだした。中産階級ではランプが多い。


 問題の家からは、たしかに子どもの泣き声が聞こえていた。


 明るい窓のなかは、紙芝居のように街路からよく見える。壁に飾られた家族の肖像画までハッキリ見わけられた。


 なかで十歳くらいの男の子が掃除をさせられている。それに対して何やら怒鳴っているのが、さっきの女だ。


 だが、泣いているのは男の子ではない。もっと幼い五、六歳の女の子。きっと男の子の妹だ。


「マズイぞ。ワレス。兄妹がさらわれてしまう」


 あわてるジェイムズを、ワレスは押しとどめる。


「まあ、待て。もう少しようすを見よう」


 観察していると、男の子は家の皿洗いやらイモの皮むきやら、細々と用事をさせられていた。妹もちょっとだけ手伝っている。だが小さいので何かと失敗しては女に叱られていた。


 人さらいにしては妙だ。家にいるあいだだけでも労力として利用しているのだろうか?


 今にきっと例のガラの悪い男が来て、子どもをつれていく。その現場を押さえようと、ワレスは思った。が、待っても男は現れない。


 そのうち家の戸口があいて、なかから兄妹が出てくる。男の子の手にはキレイな飴細工の城が乗っていた。子どもには両手でないと持てないほど大きい。


 両手を腰にあてて怖い顔をした女に、兄妹はペコペコ頭をさげて家を出ていく。


「ジェイムズ。ちょっと、ここで待っててくれ」

「えっ? うん」

「ちゃんと、あの女を見張ってろよ?」

「わかってるよ」


 ワレスは兄妹をつけていった。

 子どもたちは女の家を出ると、近くの軒下にすわりこんだ。自宅のようではない。明るい灯火のこぼれる窓の下で、キラキラ光る飴細工をウットリながめている。


「お兄ちゃん、キレイだね」

「うん。モニックはどこが食べたい?」

「お花」

「じゃあ、お花と塔をモニックにあげるよ」

「うん!」


 兄妹はお城を分解して食べだした。城のまわりを薔薇の形をした生垣がかこんでいる。女の子は薔薇の花を一つずつむしって小さな口に次々ほうりこむ。男の子は城の屋根に穴をあけた。


「甘いね。お兄ちゃん」

「うん。とっても甘いね」


 涙が出そうになるくらい美しい光景だ。

 ワレスは自分が子どものころに死んでしまった幼い妹を思いだした。ワレスもあんなふうに、妹を守っていた……。


 兄妹はお城を食べつくすと、手をつないで歩きだした。市場を三つもこえて、皇都のなかでも最下層の貧しい区域へ帰ると、今にもくずれそうなあばら家に入る。家には明かりがついていない。油やロウソクを買う金もないのだろう。


 家のなかから怒鳴り声が聞こえてきた。兄妹の父親のようだ。子どもの帰りが遅かったからじゃない。金を稼いでこなかったことを怒っているのだ。そのまま、父親は家を出ていった。近くの酒場へむかったのだ。


 それを見届けて、ワレスはジェイムズのもとまで帰った。


「ワレス。女は家のなかだよ。さっき明かりが消えたから、もう寝たんじゃないかな」

「今晩は何も起こらないだろうな。明日また出なおそう」


 すでに、なんとなく事件の真相の察しはついていたが。

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