金髪はお好き?4
ふたたび、ル・デュー伯爵家。
今度は令嬢の部屋に直行した。室内にはワレス、ジェイムズ、オリヴィエが押しかけている。令嬢のカロルは迷惑げな顔だ。
「何事ですか?」
「じつは、あなたのブロンドが本物かどうか、こちらのフィエル次期侯爵に頼まれて調べていました」
とたんに、カロルの顔がこわばる。やはり、染めているのだ。しかも、それを他人に秘密にしようとしている。
「なぜ、わたしの髪の色なんて調べているの?」
そういう令嬢の声はとても硬質だ。
「あなたが染髪料の材料を毎月、買いあつめていることは調べました。その金髪は染めたものだ。生まれつきの色ではない」
「違います!」
「だが、あなたにはその事実を人に知られてはいけない理由があった」
「…………」
カロルのおもてはますますこわばり、青ざめる。
「あなたのお母さまは赤ん坊のころに亡くなったのだそうですね。それもこの屋敷ではなく、ご実家のサジャン子爵家で」
カロルはかたく唇を結び、答えない。オリヴィエがハッとした。
「サジャン子爵家だって?」
「そうです。オリヴィエ。あなたの親戚のサジャン子爵家。子ども部屋から見えた窓の館だ」
「いや、だが、あのころは空き家だったはず」
「それは、あなたの両親が嘘をついたんだ。親類の醜聞にかかわるから、子どもに聞かせたくなかったのだろう」
「子どもに? どうしてだ?」
ワレスは説明した。
「カロル嬢の母上は不貞を疑われて実家に帰された。生まれたばかりのわが子とも離されて。オリヴィエ。あなたが子どものころに見た、悲しげなブロンド美女が、その人だ。彼女はまもなく、心労で亡くなったのだそうだ。とつぜんいなくなったのは、天に召されたからだ」
オリヴィエの初恋の人は亡くなっていた。その事実にオリヴィエの表情が一瞬、暗くなる。でも、とつぜん、双眸が輝いた。
「では、カロル嬢はあの人の娘なのか!」
「そう。あんたが惹かれたのは、初恋の人の面影を無意識に見ていたからだよ」
「あの人の娘……」
ウットリしたようすで、カロルを見つめている。
だが、そのカロル自身は泣きそうだ。
「お母さまは不貞なんてしてなかったわ。わたしは赤ん坊だったから、乳母に聞いただけだけど。ほんとはおばあさまと折りあいが悪かったのよ。家風にあわないって、しょっちゅうケンカになってたの。それで追いだされたんだわ」
いわゆる嫁姑争いだ。
貴族の結婚はほとんどが親の決めた相手との家同士での約束だ。自由恋愛がゆるされている家は少ない。
それでも、いざ結婚してみれば、何かと問題は起こる。たいていは家柄や格式、財産などを考慮して、破談にまではならない。が、貴族に仮面夫婦や別居が多いのは、そのせいもある。
「カロル。あなたはだから、人の目を気にして髪を染めているんだ。両親ともに金髪。なのに、娘のあなたが黒髪だと、母にかけられた疑惑が濃厚になる。そんなふうに思われたくなかったから染めていたんだ。そうだろう?」
カロルの瞳から涙がこぼれおちる。
「そうよ。子どものころから、おばあさまに嫌われて、髪の色をいつも責められていた。わたしがお父さまのほんとの子なら、絶対に金髪のはずだって。わたしはブロンドでないといけないんだって、ずっと思ってた」
「それは違う。たとえブロンドの両親であっても、必ずしもその子どもが金髪であるとはかぎらない。遺伝的要素はほかにもある。カロル。あなたの祖母は若いころ金髪だったと聞いた。つまり、祖父は違う。あなたの祖父は黒髪、または褐色だったのだろう?」
「ええ」
「残念ながら、あなたの髪はおじいさまに似たんだ。子どもには表れなくても、孫にその特徴が出たんだな。何しろ、ブロンドは劣勢遺伝だから」
「やっぱり、そうなのね。おじいさまはわたしの髪を見て、いつも申しわけなさそうだもの。お父さまがずっと外国の大使をして帰ってこないのも、わたしに会いたくないから。醜聞を恐れて学校にも行かせてもらえなかった。わたしの髪が金色でなかったから……わたしのことなんて、誰も愛してくれないのよ!」
すると、そのときだ。
すっと、オリヴィエが前に出る。令嬢の前にひざまずく、あのポーズは——
「私と結婚してください!」
いきなり求婚した!
まだ交際どころか自己紹介もしていないのに。
だが、意外にも令嬢の返事はこうだ。
「お受けしますわ」
「おお、夢のようだ!」
まったく、何が功を奏するかわからない。
*
帰り道は、ジェイムズと二人だ。オリヴィエはまだ令嬢と語らっている。案外、気があうようすだ。結婚してもうまくいくだろう。
「あいつが求めていたのはブロンドではなく、初恋の思い出だったんだな」
「わかっていて、彼もつれてきたんだろう? ワレス」
「まあな」
カロルも金髪ではない自分を受け入れてくれたからこそ、オリヴィエの求婚にすぐさま応じたのだろう。
「けっきょく、髪なんて何色でもいいんだよ」
そう言うワレスの肩で、純金のような髪がゆれる。
了




