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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第六話 金髪はお好き?

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金髪はお好き?4



 ふたたび、ル・デュー伯爵家。

 今度は令嬢の部屋に直行した。室内にはワレス、ジェイムズ、オリヴィエが押しかけている。令嬢のカロルは迷惑げな顔だ。


「何事ですか?」

「じつは、あなたのブロンドが本物かどうか、こちらのフィエル次期侯爵に頼まれて調べていました」


 とたんに、カロルの顔がこわばる。やはり、染めているのだ。しかも、それを他人に秘密にしようとしている。


「なぜ、わたしの髪の色なんて調べているの?」


 そういう令嬢の声はとても硬質だ。


「あなたが染髪料の材料を毎月、買いあつめていることは調べました。その金髪は染めたものだ。生まれつきの色ではない」

「違います!」

「だが、あなたにはその事実を人に知られてはいけない理由があった」

「…………」


 カロルのおもてはますますこわばり、青ざめる。


「あなたのお母さまは赤ん坊のころに亡くなったのだそうですね。それもこの屋敷ではなく、ご実家のサジャン子爵家で」


 カロルはかたく唇を結び、答えない。オリヴィエがハッとした。


「サジャン子爵家だって?」

「そうです。オリヴィエ。あなたの親戚のサジャン子爵家。子ども部屋から見えた窓の館だ」

「いや、だが、あのころは空き家だったはず」

「それは、あなたの両親が嘘をついたんだ。親類の醜聞にかかわるから、子どもに聞かせたくなかったのだろう」

「子どもに? どうしてだ?」


 ワレスは説明した。


「カロル嬢の母上は不貞を疑われて実家に帰された。生まれたばかりのわが子とも離されて。オリヴィエ。あなたが子どものころに見た、悲しげなブロンド美女が、その人だ。彼女はまもなく、心労で亡くなったのだそうだ。とつぜんいなくなったのは、天に召されたからだ」


 オリヴィエの初恋の人は亡くなっていた。その事実にオリヴィエの表情が一瞬、暗くなる。でも、とつぜん、双眸が輝いた。


「では、カロル嬢はあの人の娘なのか!」

「そう。あんたが惹かれたのは、初恋の人の面影を無意識に見ていたからだよ」

「あの人の娘……」


 ウットリしたようすで、カロルを見つめている。

 だが、そのカロル自身は泣きそうだ。


「お母さまは不貞なんてしてなかったわ。わたしは赤ん坊だったから、乳母に聞いただけだけど。ほんとはおばあさまと折りあいが悪かったのよ。家風にあわないって、しょっちゅうケンカになってたの。それで追いだされたんだわ」


 いわゆる嫁姑争いだ。

 貴族の結婚はほとんどが親の決めた相手との家同士での約束だ。自由恋愛がゆるされている家は少ない。

 それでも、いざ結婚してみれば、何かと問題は起こる。たいていは家柄や格式、財産などを考慮して、破談にまではならない。が、貴族に仮面夫婦や別居が多いのは、そのせいもある。


「カロル。あなたはだから、人の目を気にして髪を染めているんだ。両親ともに金髪。なのに、娘のあなたが黒髪だと、母にかけられた疑惑が濃厚になる。そんなふうに思われたくなかったから染めていたんだ。そうだろう?」


 カロルの瞳から涙がこぼれおちる。


「そうよ。子どものころから、おばあさまに嫌われて、髪の色をいつも責められていた。わたしがお父さまのほんとの子なら、絶対に金髪のはずだって。わたしはブロンドでないといけないんだって、ずっと思ってた」


「それは違う。たとえブロンドの両親であっても、必ずしもその子どもが金髪であるとはかぎらない。遺伝的要素はほかにもある。カロル。あなたの祖母は若いころ金髪だったと聞いた。つまり、祖父は違う。あなたの祖父は黒髪、または褐色だったのだろう?」

「ええ」


「残念ながら、あなたの髪はおじいさまに似たんだ。子どもには表れなくても、孫にその特徴が出たんだな。何しろ、ブロンドは劣勢遺伝だから」


「やっぱり、そうなのね。おじいさまはわたしの髪を見て、いつも申しわけなさそうだもの。お父さまがずっと外国の大使をして帰ってこないのも、わたしに会いたくないから。醜聞を恐れて学校にも行かせてもらえなかった。わたしの髪が金色でなかったから……わたしのことなんて、誰も愛してくれないのよ!」


 すると、そのときだ。

 すっと、オリヴィエが前に出る。令嬢の前にひざまずく、あのポーズは——


「私と結婚してください!」


 いきなり求婚した!

 まだ交際どころか自己紹介もしていないのに。


 だが、意外にも令嬢の返事はこうだ。


「お受けしますわ」

「おお、夢のようだ!」


 まったく、何が功を奏するかわからない。



 *



 帰り道は、ジェイムズと二人だ。オリヴィエはまだ令嬢と語らっている。案外、気があうようすだ。結婚してもうまくいくだろう。


「あいつが求めていたのはブロンドではなく、初恋の思い出だったんだな」

「わかっていて、彼もつれてきたんだろう? ワレス」

「まあな」


 カロルも金髪ではない自分を受け入れてくれたからこそ、オリヴィエの求婚にすぐさま応じたのだろう。


「けっきょく、髪なんて何色でもいいんだよ」


 そう言うワレスの肩で、純金のような髪がゆれる。




 了

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