金髪はお好き?2
そのブロンドの真偽が疑われているのは、ル・デュー伯爵の一人娘、カロルだ。
「年齢は二十一歳。女学校へは行かず、家庭教師の教育を受けている。社交界デビューは十八歳。母はすでに他界。父はグラノアへ大使として出かけていて、もう何年も国へ帰っていない。ちなみに祖父母はすでに白髪。若いころ、祖母はブロンドだったという話はある。染めていたのかどうかまではわからないが、もし生まれついてのものなら、孫娘が金髪である可能性もゼロではない」
これらは近所で聞いた話だ。近所と言っても、デュー伯爵家が皇都の今の屋敷に引っ越してきたのは数年前だ。伯爵が大使として外国へ旅立ってしまったので、管理の大変な大きな屋敷から、祖父母と孫の三人にほどよい、こぢんまりとした家に越したのだという。昔のことを知っている者が近隣にいない。
「乗りこむしかないな」というワレスに、ジェイムズは不安そうだ。
「乗りこむ? どうやって?」
「近所で泥棒が多発しているふりをしよう。別の事件を調べていることにすれば警戒されない」
役所勤めのジェイムズの立場を最大限に利用して、デュー伯爵家を訪問した。
屋敷は閑散としていて、召使いの数もそう多くはない。
「泥棒ですか? それは恐ろしいですね。ごらんのとおり、このお屋敷は人手が少ないので。お役人さま、どうぞ、なかをお調べください」
家令の老人につれられていくジェイムズを、ワレスはエントランスホールで見送る。女の召使いを探して屋敷のなかを歩きまわる。
まもなく、掃除中の若い小間使いを見つけた。近づいていくワレスを見て、十五、六の小間使いは顔を赤らめている。
「ど、どなたですか?」
「裁判所の調査部の調べで来た。おれはワレス。おまえは?」
「アリスです!」
「そうか。アリス。正直に答えてくれ」
「はい! なんなりと!」
なんとも元気のいい娘だ。
ワレスが微笑を浮かべ、となりにならんで立つと、すでにのぼせた目つきになっている。
「若い娘の身のまわりの品物を盗んでいく泥棒が、周辺を徘徊しているようなんだ。教えてくれ。このお屋敷にも妙齢の令嬢がいるらしいな」
「カロルさまですね」
「金髪の美しい令嬢だとか」
一瞬、アリスは黙った。が、一拍置いて、
「はい。そうですよ」という返事。何かおかしい。
「金髪なんだよな?」
「そうです。お父さまが金髪だから、血筋なんでしょう」
父も金髪。ならば、本物かもしれない。とは思ったが、今の微妙な間が気になった。
「染めているとか?」
「さあ。それはどうでしょう。わたしなんて下っ端だから、お姫さまに会うこともないし」
「でも、顔くらいは知ってるだろう?」
「うちの姫さまは、あまりお部屋から出てこられないんです。気分のいいときはお庭の散歩もされますけど、夜会なども半分は断っておられますよ」
ここへ来て、ひきこもりの証言が出た。でも、フィエル次期侯爵がどこぞの夜会で見染めたというのだから、まったく出かけないわけではない。
「今はどうなんだ? ひきこもりの時期かな?」
「いいえ。ご機嫌よくお出かけされてますよ」
「もしかして、少し前にこもる時期が続いていた?」
「そうですね」
怪しい。髪を金色に染めるには、丸一日以上かかる。灰汁だの白ワインのかすだの蜂蜜だのをまぜて、そこにサフランやカンゾウを煮詰めた液をくわえて髪にまんべんなくぬり、数時間も日光にさらして脱色するのだ。
それに、髪が伸びてくれば、その部分だけもとの色が出る。ひきこもっているのは、そのせいではないだろうか。染めるのにひじょうな労力と時間が必要なので、少し伸びてきた段階では我慢して、目立つようになってから染めている。
そう考えれば説明がつく。
ワレスは急いでジェイムズを追った。家令に頼んで、帳簿を見せてもらうためだ。すると、やはり、蜂蜜やオレンジなど染髪料に必要な材料が定期的に購入されている。さらに庭を見れば、サフランが大量に咲いていた。
もう間違いない。
カロル姫のブロンドは偽物だ。




