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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第六話 金髪はお好き?

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金髪はお好き?1



「はあっ? おれをなんだと思ってるんだ?」


 思わず、ワレスが大声を出してしまうほど、その依頼は珍妙で低俗で身勝手で利己的だった。もっと言えば、無意味で徒労感満載とろうかんまんさい。調べる価値が見いだせない。


「しぃっ、しっ。ワレス。とりあえず、フィエル次期侯爵の話を最後まで聞こう。なっ?」


 となりの席のジェイムズが必死になだめる。裁判所の調査部に勤務する友人のジェイムズの頼みで、貴族の問題を解決することは、これまでにもよくあった。しかし、ここまでバカバカしいものは初めてだ。


「だって、《《女のブロンドが本物かどうか知りたい》》って言うんだぞ? そんなの、なんの意味があるんだ? 染めてようがカツラだろうが地毛だろうが、大した問題じゃないだろ?」


 これまではいちおう家庭の不和だとか命の危険だとか、解決しなければならない理由があった。今回の頼みはほんとにくだらない個人の趣味の話だ。


 だが、身分ある依頼主の目の前で、ただの平民のワレスが罵詈雑言ばりぞうごんをならべても、次期侯爵は恍惚こうこつとしている。ワレスが金髪ブロンドだからだ。それも、もっとも黄金に近いゴールデンブロンドである。陽光のなかで燦然さんぜんと輝くと、王冠をかぶっているに等しい。ワレスはキレイな巻毛なので、なお華やかだ。


 フィエル侯爵オリヴィエは、うっとりした目つきで、ワレスのブロンドを見つめている。


「美しい髪だ。ここまで見事な金髪は初めて見る。まるで黄金をくしですいたかのよう。もったいない。なんで男なんかに生まれてしまったんだ。女性なら、この場で求婚したのに。君に姉か妹はいないか? いたら紹介してほしい」


 男はいわゆる金髪フェチだ。気になる貴婦人がいるのだが、その人の金髪が本物なのか、染めただけなのか知りたいというのである。


「さっさと帰るぞ」というワレスを、ジェイムズは必死におがんでひきとめる。


「そこをなんとか頼む」

「おまえが調べればいいだろ。そのくらい」

「貴婦人にあなたは髪を染めてますかと聞いて、素直に答えてくれると思うか?」


 まあ、それはムリだろう。

 そもそも、根本的なところで、金髪の美女はとても貴重で尊ばれるという社会的傾向がある。


 金髪のまま成人する者は、ブロンドの多い北の国でも、全人口の二パーセント未満だ。子どものときは金髪でも、成長すると多くはブラウンや黒髪になってしまうのだ。

 ましてや、国民のほとんどが黒髪黒い瞳のワレスの母国では、成人しても金色のままのブロンド保持者は千人……いや、一万人に一人もいるだろうか?


 ワレスは父がダークブロンド、母にいたっては美しいプラチナブロンドだった。だから、兄妹はみんなブロンドかダークブロンドだ。ワレスも子どものころは淡い白金に近い色だった。成長すると、たいてい少し色が濃くなる。


 そういう下地がなければ、生まれつきのブロンドは望めない。

 だが世間では美女のなかで、もっともグレードの高いのは金髪という概念が根強くある。よって、髪を染める女性があとを絶たないというわけだ。


 男でわざわざ染める者はそういないが、女の金髪はほぼ染めた色と見たほうがいい。


「それで、貴婦人の金髪が本物かどうか調べて、どうするんだ?」


 ワレスは相手を見て語調を変える癖がある。この男にはどんなに強気でも平気だ。なぜなら、彼はワレスの髪に完全に魅了されているから。


「彼女のブロンドが本物なら求婚する」

「偽物なら?」

「結婚はあきらめる」

「金髪じゃないと妻にしたくないのか?」

「まあ、そう」


 まったく、あきれるほどの金髪フェチだ。


 こんな依頼、うけおったって、ワレスにはなんの得もない。とは言え、ジェイムズのようすから見れば、断れない要望なのだろう。まあ、しょせん、五分《5ミール》もあれば片づく仕事である。


「わかった。いちおう調べてはみる」


 オリヴィエはまだ恍惚としながら、うなずく。

「よろしく頼むよ。ところで、君の姉妹は?」

「…………」


 なんとも気持ち悪い男だ。

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