金髪はお好き?1
「はあっ? おれをなんだと思ってるんだ?」
思わず、ワレスが大声を出してしまうほど、その依頼は珍妙で低俗で身勝手で利己的だった。もっと言えば、無意味で徒労感満載。調べる価値が見いだせない。
「しぃっ、しっ。ワレス。とりあえず、フィエル次期侯爵の話を最後まで聞こう。なっ?」
となりの席のジェイムズが必死になだめる。裁判所の調査部に勤務する友人のジェイムズの頼みで、貴族の問題を解決することは、これまでにもよくあった。しかし、ここまでバカバカしいものは初めてだ。
「だって、《《女のブロンドが本物かどうか知りたい》》って言うんだぞ? そんなの、なんの意味があるんだ? 染めてようがカツラだろうが地毛だろうが、大した問題じゃないだろ?」
これまではいちおう家庭の不和だとか命の危険だとか、解決しなければならない理由があった。今回の頼みはほんとにくだらない個人の趣味の話だ。
だが、身分ある依頼主の目の前で、ただの平民のワレスが罵詈雑言をならべても、次期侯爵は恍惚としている。ワレスが金髪だからだ。それも、もっとも黄金に近いゴールデンブロンドである。陽光のなかで燦然と輝くと、王冠をかぶっているに等しい。ワレスはキレイな巻毛なので、なお華やかだ。
フィエル侯爵オリヴィエは、うっとりした目つきで、ワレスのブロンドを見つめている。
「美しい髪だ。ここまで見事な金髪は初めて見る。まるで黄金を櫛ですいたかのよう。もったいない。なんで男なんかに生まれてしまったんだ。女性なら、この場で求婚したのに。君に姉か妹はいないか? いたら紹介してほしい」
男はいわゆる金髪フェチだ。気になる貴婦人がいるのだが、その人の金髪が本物なのか、染めただけなのか知りたいというのである。
「さっさと帰るぞ」というワレスを、ジェイムズは必死におがんでひきとめる。
「そこをなんとか頼む」
「おまえが調べればいいだろ。そのくらい」
「貴婦人にあなたは髪を染めてますかと聞いて、素直に答えてくれると思うか?」
まあ、それはムリだろう。
そもそも、根本的なところで、金髪の美女はとても貴重で尊ばれるという社会的傾向がある。
金髪のまま成人する者は、ブロンドの多い北の国でも、全人口の二パーセント未満だ。子どものときは金髪でも、成長すると多くはブラウンや黒髪になってしまうのだ。
ましてや、国民のほとんどが黒髪黒い瞳のワレスの母国では、成人しても金色のままのブロンド保持者は千人……いや、一万人に一人もいるだろうか?
ワレスは父がダークブロンド、母にいたっては美しいプラチナブロンドだった。だから、兄妹はみんなブロンドかダークブロンドだ。ワレスも子どものころは淡い白金に近い色だった。成長すると、たいてい少し色が濃くなる。
そういう下地がなければ、生まれつきのブロンドは望めない。
だが世間では美女のなかで、もっともグレードの高いのは金髪という概念が根強くある。よって、髪を染める女性があとを絶たないというわけだ。
男でわざわざ染める者はそういないが、女の金髪はほぼ染めた色と見たほうがいい。
「それで、貴婦人の金髪が本物かどうか調べて、どうするんだ?」
ワレスは相手を見て語調を変える癖がある。この男にはどんなに強気でも平気だ。なぜなら、彼はワレスの髪に完全に魅了されているから。
「彼女のブロンドが本物なら求婚する」
「偽物なら?」
「結婚はあきらめる」
「金髪じゃないと妻にしたくないのか?」
「まあ、そう」
まったく、あきれるほどの金髪フェチだ。
こんな依頼、うけおったって、ワレスにはなんの得もない。とは言え、ジェイムズのようすから見れば、断れない要望なのだろう。まあ、しょせん、五分《5ミール》もあれば片づく仕事である。
「わかった。いちおう調べてはみる」
オリヴィエはまだ恍惚としながら、うなずく。
「よろしく頼むよ。ところで、君の姉妹は?」
「…………」
なんとも気持ち悪い男だ。




