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ジゴロ探偵の甘美な嘘〜短編集3 透明な季節〜  作者: 涼森巳王(東堂薫)
第五話 青薔薇密室

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青薔薇密室1



 自然界には青薔薇は存在しない。きわめてめずらしいその青い薔薇の品種改良に、ル・ドヴィア伯爵の子息が成功したのだという。


 今日はその発表会をかねたパーティーだ。

 場所は当然、ル・ドヴィア伯爵邸。美しく着飾った貴公子や貴婦人が集まっている。が、青薔薇に興味がある者は少ないのではなかろうか。貴族の趣味として、園芸は地味なほうだ。


「ほら、わたくしの亡くなった夫が庭いじり好きだったじゃない? それで生前、ル・ドヴィア次期伯爵と仲がよかったのよ」と、ジョスリーヌはいささか退屈そうに言った。

 この年上の後見人の機嫌をうかがいながら、ワレスは答える。


「まあ、あんたが男から貰う以外で、薔薇を愛でるとは思えないよな」

「花は女をひきたてるためにあるのよ」


 さすがはワガママな女侯爵だ。いかにもジョスリーヌらしい言いぶんに、ワレスは苦笑した。


「ところで、その青薔薇はどこに?」

「さあ。バチストに聞いてみる?」


 バチストはル・ドヴィア次期伯爵のファーストネームだ。


「そうだな。せっかく来たんだから、見ておくか」


 ワレスはまだ本物の青い薔薇を見たことがなかった。自然界に存在しないという花をひとめくらい見てみたい。


 ジョスリーヌについていき、バチストに紹介される。年齢は三十前だろうか。地味な趣味の持ちぬしらしい、目立たない容姿だ。


 しかし、なんだろうか?

 大好きな園芸で成果が出て、その発表会だというのに、バチストの顔色は冴えない。緊張のせいか、そのおもては青ざめてひきつっている。


「バチスト。こちら、ワレス。わたくしの可愛い人よ。青い薔薇を彼に見せてあげてくれないかしら?」

「侯爵さまのお願いとあれば、なんなりと。こちらへおいでください」

「どこに置いてあるの? 庭かしら?」

「いいえ。温室ですよ」


 というわけで、大広間を出て、バチストに案内されていく。温室は貴族といえど、どの屋敷にもあるというものではなかった。植物に関心がなければ、それ専用の建物もいらないのだ。


 薔薇はけっこう丈夫で、風を好むと聞いた。仲よくしているなかに、やはり薔薇の花が大好きで、自宅の庭を自分で管理している貴婦人がいるのだ。外で育てたほうが虫害や病気にもかかりにくいという話なのだが。

 まあ、特別な花だから、交雑しないよう保管に気をつけているのだろう。


 温室は屋敷の端にあるという。いったん庭に出て、柱廊を通っていったさきにある。出入口は一つだけ。ガラス扉には鍵がかかり、その鍵はバチストが持っている。そして、温室の外壁はすべてガラスだ。


 ところが、温室へ行きつく前に、柱廊あたりで、バチストは立ちすくんだ。

 バチストと同年代の男と、少し年下の女が柱のかげで親密に話している。会話の内容までは聞こえないが、そのようすは恋人同士だ。


 ところが、「あら、フロリアーヌじゃない。ごきげんよう」と、ジョスリーヌが近づくと、男女は気まずいようすで、サッと離れた。


 しょうがなさそうに、バチストが二人に声をかける。


「やあ、ここにいたのか。薔薇を見にきたのかい? ウィリアム、フロリアーヌ」

「あなたがここにいるのかと思って」と、フロリアーヌが答える。伏目がちの態度で、女性はずっと居心地が悪そうだ。


「私は広間にいたよ。だが、ちょうどいい。君たちもいるなら、いっしょに薔薇を見よう」


 バチストはそう言った。

 二人ともバチストの友人らしい。


 それで総勢五人に増えた。

 バチストの友人のウィリアムは、ジョスリーヌと初対面だ。道中、じょさいなく自己紹介する。よくしゃべるなと思えば、彼は貴族ではなく商人の息子だ。


「ウィリアム・ストゥーランと申します。ラ・ベル侯爵さまにお目通りいただけるとは光栄しごく」

「堅苦しいのは好きじゃないのよ。長ったらしいあいさつはやめて」

「申しわけありません。侯爵さまが花のようにお美しいので、舞いあがってしまいました」


 見えすいたお世辞だが、ジョスリーヌは気をよくしている。


 話のなかで、ウィリアムの実家は皇都でもっとも大きな花屋だとわかった。庭師を数十人も雇っていて、貴族の屋敷の造園なども手がけている。つまり、大金持ちだ。平民なのに名字があることでも、それはわかる。


 そうこうするうちに、温室についた。ただ一つの出入口の鍵を、バチストが外す。


「さあ、どうぞ。なかに青薔薇があります」


 バチストは言ったのだが、それは真実ではなかった。いや、少し前まではあったのかもしれない。


「あっ! こ、これは——」


 青薔薇の鉢は、無惨に花首すべて切り落とされていた。

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