透明な季節4
ワレスは再度、彼女の部屋をおとずれた。今度は一人で。
彼女は窓ぎわにいる。
透明感のある立ち姿。
きっと、これはこの時期特有の犯罪だ。
「エクエレンテを殺したのは、君だね?」
彼女はなんとなく、ワレスが来るとわかっていたようなそぶりでふりかえる。
「エクエレンテに毒を飲ませることができたのは、君だけだ」
「どうやって?」
ワレスは彼女の手をとり接吻する。
「こうやって」
彼女は深々とため息をついた。
「じっさいには、恋人同士でしかできない方法で。君は自分の唇に毒をぬり、くちづけで、それをエクエレンテにふくませた。茶会で菓子を食べる前に、エクエレンテはすでに毒を飲んでいたんだ。スズランの毒は効果が現れるまでに半刻以上かかる。エクエレンテが言っていた頭痛というのが、その症状の一つだった」
「スズランが毒だって、マノンが話してたの。あの子、変わったことばっかり、くわしいのよ」
「自分だって毒を飲めば、死んだかもしれないのに」
「ほんとは二人いっしょに死にたかったの」
そう言って、フランソワーズは涙をこぼした。
「わたしたち、約束したの。たとえ大人になって親の決めた相手と結婚しなければいけなくなっても、心はずっとおたがいのものだって。でも、エクエレンテは心変わりした。この前、初めて会った婚約者に夢中になって……」
それは自然の摂理だ。エクエレンテはひと足早く、少女の時期とサヨナラした。
でも、まだ少女時代のなかにあるフランソワーズには、それは絶対にゆるされない裏切り行為だった。
「君は一生、自分のしたことを後悔するんだぞ?」
「後悔なんてしないわ」
わかってない。
大人になれば、必ず悔いる。
《《ワレスだからこそ、熟知しているのだ》》。
すると、そこにマノンがかけこんできた。
「ワレス、フラン、聞いて! エクエレンテの目がさめたって!」
「えっ?」
死んだと聞かされていたのに、目がさめた?
「死んでなかったのか?」
「誰がそんなこと言ったの?」
おまえだよ。
「よかったね! またみんなでお茶会できるね」
無邪気なマノンの言葉に、フランソワーズはほのかに微笑した。
いつかきっと、フランソワーズは今日の奇跡に心から感謝する。
ワレスは退室した。
ぴったり五分がたっていた。
*
キャアキャアさわぐ女の子たちに手をふって女子寮を出ると、ワレスはその足で近くにある墓所へ行った。
「おれにも、奇跡が起こればよかったのに……」
もしも、あのとき、ルーシサスが息を吹きかえしてくれていたら、ワレスは今、これほど後悔していない。
あの透明な季節に戻れたら——
ルーシサスの墓石とむきあっていると、ジェイムズがかけてきた。心配そうに息を切らしている。
「急にいなくならないでくれ」
「よくわかったな。おれが、ここにいると」
「わかるよ。泣きたいんだろ?」
「……ちょっとのあいだ、目をつぶれ」
ジェイムズの胸を借りると、涙のほろ苦さも、ひどく心地よかった。
了




